Santana『Inner Secrets』 1978
1977年、ライヴ音源とスタジオ録音の新曲が混在した、変則的な内容の二枚組LP『Moonflower』をリリースして、何となく一区切りした感のあったSantana (サンタナ)。この二枚組については、雰囲気の良いAORなフュージョン・ロックであった。
さて、翌年1978年の10月にサンタナは『Inner Secrets』(写真左)、邦題『太陽の秘宝』をリリースする。浪人時代、一年に渡る苦闘の末、なんとか大学に入った年のリリースなので、このアルバムの存在は良く覚えている。
しかし、この地味なジャケットと、大学に入ってまで、もはやロックでもないやろう、という思いの中、なかなか手にすることは無かった。というか、金持ちの友人をかどわかして買わせた。そして借りた(笑)。
久し振りに今の耳で聴くと、このサンタナのアルバムは,完璧なAORフュージョンである。ロック的な要素は希薄。ロックのリズム&ビートは影を潜め、演奏内容は完璧にAORフュージョンである。
そう言えば、1978年と言えば、フュージョン・ジャズ、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の流行のピーク。他の例に漏れず、インスト&ラテン・ロックの雄、サンタナもそのトレンドにガッチリと乗った、というところか。微笑ましいというか、商魂逞しいというか、まあ、現金なものである。
ロック的な荒削りなところ、力業を繰り出す体育会系のノリは影を潜めたが、代わりに、ポップでお洒落なフレーズ、聴き心地の良いギター・ギターインストを全面に押し出した、AORフュージョンな雰囲気が満載である。とにかく聴き心地が良い。優しさ柔らかさに流れることなく、ちょっとハードなサンタナのギター・インストが聴く耳に印象的に響く。
モータウン・サウンドを支えていた売れっ子プロデューサー、デニス・ランバート&ブライアン・ポッターのプロデュースなんだが、R&B的な響きはほとんど無い。ちょっとだけラテン・チックなパーカッションが活躍するところがあるが、基本的に、そのリズム&ビートは、フュージョン・ジャズのリズム&ビートを踏襲している。
ハード・ロック的な展開の楽曲もあるが、アレンジが洗練されていて、ハードなサンタナのギター・インストも滑らかにハードロックしていて、如何にも「程良くアレンジされたハード・ロック調のAOR」って感じがビンビンに漂っていて胡散臭い(笑)。いやいや、でも演奏内容はなかなかのものなんですよ。でも、これは元来のハード・ロックな演奏ではありません。演奏の底に漂うスピリットが違います。
当時のサンタナのインタビュー発言に「メンバーが経済的に潤いたいって言ったから僕もちょっと考えた」という発言がありました。発売当時、1978年の頃は、思わず、およよ、と思いましたねえ。そんな売れ筋に走るなんて、これはもうロックじゃない、なんて青臭い思いを持ちましたねえ。ふふっ、あの頃は若かった。
このアルバムでは、サンタナはエレギを弾きまくっていて、AORなフュージョンとしてのエレギのインストとしては秀逸です。商業ロックに走ったサンタナとしてこのアルバムを聴くのでは無く、純粋にAORなフュージョンとして、このアルバムに、このサンタナのフュージョンなギター・インストに耳を傾けることをお勧めします。
サンタナはギタリストとして、AORなフュージョンを演奏することも出来るということですね。このアルバムでのサンタナのエレギは、サンタナの本質とはちょっと違うところにあるとは思うんですが、これはこれで、なかなか内容も良く、避けて通るには勿体無い内容のアルバムです。とにかく、サンタナのギターは上手い。
しかし、この当時のCBSソニーの邦題『太陽の秘宝』って何とかならないですかねえ。何をイメージして、何を感じて良いのか、全く良く判らない邦題でした。この邦題を見て、これはまたサンタナはスピリチュアルな音世界に走ったか、と思いながら、このアルバムに針を落とした時、スピーカーから出てきたAORフュージョンな音に思わず仰け反りました。全く罪作りな邦題ですよね(笑)。
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