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Arthur Taylor『Taylor's Wailers』

1950年代、ハードバップ黄金時代のジャズ・レーベルの代表格が、BlueNote、Prestige、Riverside。3大ジャズレーベルと呼ばれる。

そんな3大ジャズレーベルの中で、一番いい加減というか、やっつけ的なのが、Prestigeレーベル。まず、ジャケット・デザインはやっつけ(たまに良いってものもあるが確率的には他のレーベルに比して低い)、アルバムの収録も、ジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めて、一発勝負のジャム・セッション的録音が多い。

プロデュースは意識的にアルバムを作成するのでは無く、ジャム・セッションの流れに任せて、そのアルバムの出来は、そのセッション都度の偶然に委ねているものも多々ある。しかし、そんな偶発的なものに委ねたプロデュースでも、なかなかに内容の伴ったアルバムが出来てしまうところに、ジャズの面白さがある。

さて、そんなジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めた、一発勝負のジャム・セッションの成功例の一枚が、Arthur Taylor『Taylor's Wailers』(写真左)。Arthur Taylorは、アート・テイラーとも呼ばれ、ハードバップ時代のセッションドラマーの代表格。ハードバップ時代の名盤、佳作にドラマーとして名を連ねることが多い、当時、ファーストコールなドラマーである。

そんなアート・テイラーが名目上のリーダーとなって、ジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めた一発勝負のジャム・セッションの演奏をまとめたアルバムが『Taylor's Wailers』。しかし、この『Taylor's Wailers』のリリースは、1957年2月25日と3月22日。

ちなみに3月22日のセッションは、John Coltrane (ts)を交えた、Coltrane中心のセッションからの収録。3月22日のセッションからの収録は、2曲目の「C.T.A.」のみである。この2曲目の「C.T.A.」だけがメンバーも雰囲気も違う。ちなみに、パーソネルは、John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b)。そんな全く異なるセッションから曲を寄せ集めてアルバムを作ってしまういい加減さもPrestigeレーベルならではの仕業である(笑)。
 

Taylors_wailers

 
2曲目の「C.T.A.」以外の他の5曲は同一メンバーでのジャム・セッションとなってる。ちなみに、そのパーソネルは、Art Taylor (ds), Jackie McLean (a), Charlie Rouse (ts), Donald Byrd (tp), Ray Bryant (p), Wendell Marshall (b)。ファンキーでドライブ感のあるピアノが特徴のレイ・ブライアントと、セロニアス・モンクの下を離れたチャーリー・ラウズの参加が興味津々。

アルバム全体を聴き通すと、確かに2曲目の「C.T.A.」だけが演奏の雰囲気が違う。テナー・ソロはどう聴いてもコルトレーンである。ピアノはどう聴いてもガーランド。なんで、この曲だけ明らかにメンバーが違うと判るのに、この1曲だけを、他のジャム・セッションの演奏曲と混ぜてアルバム化したのか、理解に苦しむ。聴く者の耳を軽視しているとしか思えない。プロデューサーのボブ・ワインストックに訊いてみたい位だ。

それでも、異質な2曲目の「C.T.A.」に、他の5曲も併せて、ハードバップな演奏が実に色濃く、絵に描いた様なハードバップ的な演奏を楽しめる好盤となっている。これだけいい加減にアルバム化している割に、ハードバップの印象、雰囲気を強く感じる事が出来る。これぞ「Prestigeマジック」 である(笑)。

2曲目の「C.T.A.」以外の収録曲を見渡すと、これまたバラバラ。全く一本筋が通っていない(笑)。ファンキー・ジャズあり、ラテンチックな曲 あり、難解なモンクの幾何学的ジャズあり、バリバリの超スタンダードあり、演奏収録された曲は見事にバラバラ(笑)。それでも、なぜか一貫して、当時全盛 であったハードバップ的な演奏が、実に色濃く記録されているのが実に不思議。

チャーリー・ラウズのテナーがこれだけ個性的で伝統的なものだと初めて感じたし、レイ・ブライアントのファンキーなピアノはこれはこれで個性的だと 思ったし、ジャッキー・マクリーンのアルトは相も変わらず個性的だし、ドナルド・バードのトランペットも溌剌としている。それをバックでとりまとめ盛り立 てるアート・テイラーのドラミングは堅実かつノリが良い。

このアルバム、一聴しただけでは、異質な2曲目の「C.T.A.」の存在がトラップとなって、誰のアルバムだか判らないことが多い。それでも、アルバム全体を覆う雰囲気は、ハードバップ全盛時代の良質なハードバップ的雰囲気が横溢しているので、余計にこのアルバムは誰のリーダーアルバムなのか判ら無くなる。

この『Taylor's Wailers』、Prestigeレーベルのいい加減かつ、やっつけ的な収録〜編集方針がなぜが「功を奏した」不思議なハードバップ・アルバムである。適当にメンバーを集め、適当にジャム・セッションさせる。「スタジオ代がもったいない」という理由からか、ほとんどが「一発録り」。それでも、これだけの内容のハードバップ・アルバムが出来るのだから、本当にジャズって面白い。 
 
 

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