Kazutoki Umezu『Kiki』
「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ。今回は14回目。ずっと、純ジャズ、それもハードバップ系の、ちょっと隠れた名盤っぽいアルバムをご紹介してきた。といって、純ジャズ系ハードバップ・ジャズだけが、このシリーズの守備範囲では無い。
今日は、ちょっと尖ったエレクトリック・ジャズの隠れ名盤をご紹介したい。梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』(写真左)。聴いたことがあるジャズ者の方って、あまりいないのでは、と思われる。僕も全く知らなかった。恐らく、ジャズのアルバ ム紹介本なんかにも、その名が挙がることは全く無いと思われる。
が、このアルバムがなかなかの内容なんですよ。ですが、まず、梅津和時とは何者か、ということですね。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を紐解くと、梅津和時(うめづ・かずとき、1949年10月17日 - )は、日本のミュージシャン、サックス、クラリネット奏者。フリー・ジャズを中心に、ロックやクレズマー等、幅広い分野で活動、とある。
僕がジャズ者初心者の頃、大学のころである。梅津和時は、完膚無きまでの「フリー・ジャズ」戦士だった。相当にフリーキーな演奏だったなあ。当時、ジャズ者初心者の頃である。フリーな演奏は全くと言って良いほど知らなかったし、全く理解出来なかった。敢えて無理して聴くこともあるまい、ということ で、梅津和時の演奏は「完全封印」。
が、である。iTunesが出来て、iTunesの中を徘徊していて、この梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』を見つけた。iTunesの良さは、収録された各曲30秒試聴できることである。冒頭の「Kiki」の出だし30秒を聴いて、これは「凄い」と思った。
まるで、エレクトリック・マイルスである。ビートを意識し、ビートを中心にした、エレクトリック・ジャズ。エレクトリックなビートをブンブン言わせて、そのビートの上を、KIKI
BANDのフロント、テナーとギターが中心に、ユニゾン&ハーモニー、そして、フリーキーにインプロビゼーションをかましまくる。
冒頭「KIki」続く「空飛ぶ首」は、完璧なエレクトリック・ファンク・ジャズ。きっちりベースはマイルスである。面白いのは2曲目の「空飛ぶ
首」。エレクトリック・ファンク・ジャズが基本だが、ビートのうねりが、トーキング・ヘッズみたいだったりする。いや〜、なんてごった煮な音楽性だ。これぞジャズである。
3曲目の「Vietnamese Gospel」のバラード演奏が、これまた良い。情感タップリに、梅津和時のテナーが鳴り響き、ギターがこれまた情感たっぷりのインプロビゼーションを聴 かせる。ちょっと和風な雰囲気も漂わせながら、実にポップなバラードである。ここでの梅津和時のテナーは絶品である。
5曲目の「Dancing Bones」は、これまた硬派なエレクトリック・ファンク・ジャズ。エレクトリック・マイルスのビート重視のグループサウンドを実に良く踏襲し、梅津和時 KIKI BANDとしての個性をしっかり折り込んだ硬派なエレクトリック・ファンク・ジャズに完全に脱帽である。間を活かしたソロ、硬軟自在なリズムチェンジ、適 度な隙間のあるビート。フリーキーなテナーとギターのインプロビゼーション。ロックではこうはいかない。かといって、ジャズでもこうはいかない。これは硬派な上質のフュージョンである。
ラストの「Fucking Ada」は、これはもう完全に梅津和時の世界。ビートをシッカリと底に這わせて、テナーとギターが完全フリーな演奏を全編に渡って繰り広げる。でも、昔の 様な、気持ちだけが先走りした、感情的なフリー・ジャズでは無い。シッカリとしたビートに乗ってのフリーキーな演奏なので、演奏全体が崩壊することなく、フリー・ジャズというよりは、限りなく自由になったモーダルな演奏と言った方が良いかもしれない。
この梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』を聴いて、「エレクトリック・マイルスの後を継ぐ者」という言葉を思い浮かべた。この『Kiki』というアルバムの中に、エレクトリック・マイルスのDNAが息づいている。エレクトリック・マイルスを模倣するのではない、自分のものとして消化し、自分達の個性をマージしてのエレクト リック・ファンク・ジャズは、いつ聴いても、聴き耳を立ててしまう。
といって、他の梅津和時のアルバムを好んで聴くか、と言えばそうではない。僕にとっては、梅津和時のアルバムについては、この『Kiki』だけが唯一のアルバム。それでも僕はこのアルバムに出会えて幸せである。
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