懐かしのEL&P『展覧会の絵』
僕の音楽に対する志向は、中学時代まではクラシック中心、ラジオで米国ポップスを密かに楽しむ位だった。ロックなんてほとんど知らないし、ロックを聴いていたら、周りから「不良」のレッテルを貼られた時代である。今から40年以上前、高校1年の夏、映画研究部の合宿で、このライブ盤に出会わなければ、恐らく、今の「音楽の志向」「音楽の好み」は無かったのではないかと思う。それほど、この盤との出会いは「カルチャーショック」だった。
Emerson Lake & Palmer(略してEL&P)『Pictures at an Exhibition』(写真)。1971年のリリース。パーソネルは、Keith Emerson (key), Greg Lake (b, g, vo), Carl Palmer (ds)。ロックの中では珍しい、キーボードがメインのトリオ編成。 邦題は『展覧会の絵』。原曲は、19世紀のロシアの作曲家ムソルグスキーが作曲した同名のピアノ組曲『展覧会の絵』。そう、このELPのアルバムは、クラシックの名曲をロック化したもの。しかも、ライブ盤である。
振り返って冷静になって考えてみると「クラシックの名曲をロック化した」なんて言う、思いっきり「パチモン」な内容であり、それをライブ音源でリリースするという、無理を思いっきり通す様な「力業」的なアルバムである(笑)。クラシックの名曲のロック化。とにかく「胡散臭い」アルバムではある。が、そんな「胡散臭さ」なんて、全く気にさせない、どころか、そんな「胡散臭さ」が逆に「売り」となるような、不思議かつ歴史的なアルバムではある。
まず、EL&Pの演奏力が圧倒的である。特に、キーボードのキース・エマーソンのテクニックが驚異的。ロックの世界で、キーボード・ベース・ドラムという、ジャズのピアノ・トリオの様な演奏フォーマットが成立するのか、という危惧がある。キーボードの音が、電気的に音響的に増幅されたベースの音と激しく叩きまくるドラムの音に相対するのか、ということなんだが、確かに、これは難物ではある。
しかし、キース・エマーソンの様な攻撃的かつ神懸かり的なテクニックがあれば成立するということが、このライブ盤で証明されている。逆に、このEL&P以外に、キーボード・ベース・ドラムというトリオでのロック・バンドは存在しない。それだけ、キース・エマーソンのキーボードのテクニックが突出しているということだ。
とにかく、コンセプトは何であれ、音楽というものは「演奏力と表現力」が第一であり、ライブ盤であれ、スタジオ録音盤であれ「緊張感と疾走感」がそれを後押しする。歴史的名盤とはそういうものだ。この『展覧会の絵』には、様々な屁理屈を全く受け付けない、有無を言わせない、圧倒的な「演奏力と表現力」と「緊張感と疾走感」が備わっており、そこにクラシックの名曲を引用した「親しみ易さと入り易さ」という要素が付け加わって、このライブ盤は、1971年のリリース以来、永遠の名盤として君臨している。
確かに、振り返ってみると、クラシックの名曲をロック化して、この『展覧会の絵』と同等の成果を上げたロックのアルバムは見当たらない。このライブ盤には「パチモン」と「胡散臭さ」を寄せ付けない、「演奏力と表現力」そして「緊張感と疾走感」に支えられた圧倒的な力強さがある。歴史的名盤とはそういうものである。
このEL&Pの『展覧会の絵』は、クラシック&米国ポップス・ファンだった僕をロックの世界へ引きずり込んだ、なんともはや、罪作りな名盤である。この『展覧会の絵』を経験して以降、まずは「プログレ小僧」の道をまっしぐら。傍らで、ハードロックにもドップリ浸かった(笑)。このライブ盤の体験が、僕の人生のベースを形成する切っ掛けになったことは間違い無い。良い時代に良きロックを知って良かったと心から思っている。確かに、以降の人生が豊かになったことは疑いない。
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