Boz Scaggs『Silk Degrees』 1976
僕が密かに「AORの伊達男」と呼んでいる男がいる。その男の名前を言う前に、AORとはなんぞや、という問いに答えておく。日本で「AOR」とは、「Adult Oriented Rock (大人が心を向けたロック)」の略と解釈される。「大人向けのロック」という感じかな。1970年代中盤から1980年代にかけて流行しました。
さて、AORの「伊達男」とは、ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs・写真右)のこと。ボズ・スキャッグスは、オハイオ州出身の米国ミュージシャン。AORサウンドを代表するシンガー。R&B色が濃い泥臭い音楽を中心に、サンフランシスコを拠点に活動していたが、ちっとも売れなかった。しかし、1976年、突如、大幅なイメージ・チェンジを断行、ソフィスティケートされたアルバムを出して、一躍、AORの代表格になった。
Boz Scaggs『Silk Degrees』(写真左)。1976年の作品。AORの代表的名盤の1枚。パーソナルは当時の腕利き、名うてのスタジオ・ミュージシャンが起用されている。目立ったところでは、後に「Toto」を結成する、David Paich (key), David Hungate (b), Jeff Porcaro (ds) が参加している。
これぞAORという雰囲気のアレンジが素晴らしい。ブラスの使い方、女性コーラスの使い方、弦の使い方、エレピの使い方、どれもが、後のAORアルバムに応用され尽くした数々の「定番アレンジ」がてんこ盛り。良いステレオ装置で、じっくりと聴き返すと、ほんと良くできたアレンジに感じ入ってしまう。
ボズ・スキャッグスの声は太く丸くて、少しくぐもっていてソフトな声。この声を活かすには、ポップでソフィストケートされた雰囲気が必要。そのソフィストケートされた雰囲気を出すのにはどうしたらいいか。ロック・ファンのみならず、一般の人々にアピールするにはどうしたらいいか。FMで取り上げられてバンバン、オンエアされるにはどうしたらいいか。を考え抜いて考え抜いて、このアルバムにある「秀逸なアレンジ」が生まれたんだろう、と思う。
この『Silk Degrees』、ブラスと弦、女性コーラスを大々的に前面に押し出したおかげで、ロックのアルバムというよりは、ちょっと硬派なアメリカン・ポップ的な雰囲気になってしまって、ロック・ファンからすると、ソフト&メロウな世界へ行き過ぎた感じは否めない。しかし、それがかえって、ロック・ファンというマニアックな世界から飛び出して、一般の人々にも十分にアピールし、当時としては爆発的に売れた。AORの初期の代表的なアルバムになり、ボズ・スキャッグスの代表盤となった。
LPのB面のラストに収録された「We're All Alone(二人だけ)」という曲は、実に良い曲である。この曲を初めて聴いた時、良い曲だなあ、と感じ入ったのを覚えている。しかしながら、曲としてはとても良く出来ているんだが、この曲だけはアレンジがいただけない。弦が、あからさまに出過ぎていて、どうしても、なんだかチープな感じがしてならない。弦を入れたら良いってもんじゃない。
とはいえ、この『Silk Degrees』、AORの代表的名盤の一枚という事実には変わりが無い。Billboard Hot 100で3位、R&Bチャートとディスコ・チャートで5位に達し、同曲はグラミー賞において最優秀R&B楽曲賞を受賞。実績も申し分無し。今の耳にも十分に鑑賞に耐えるソフト・ロックの好盤です。
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