« 2012年7月 | トップページ | 2014年1月 »

Archie Shepp『Ballads For Trane』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの10回目。懐かしのDENONレーベルでの作品。

1970年代、日本国内レーベルDENONは素晴らしい仕事をしていました。カタログにあるアルバムは、ジャズとしてどれも良い出来でした。

そんなDENONレーベルの中の、Archie Shepp(アーチー・シェップ)『Ballads For Trane』(写真左)。1977年5月の録音。パーソネルは、Archie Shepp (ts, ss), Albert Dailey (p), Reggie Workman (b), Charlie Persip (d)。なんと渋いメンバーなのか。

ジョン・コルトレーンの直系といわれる、テナー奏者、アーチー・シェップが、コルトレーンゆかりのバラード・ナンバーだけを集中して取り上げたアルバムです。
 
コルトレーン亡き後、フリー・ジャズの旗手として認識されていたアーチー・シェップでしたが、どうしてどうして、正統なメインストリーム・ ジャズを演奏させてみれば、あ〜ら不思議、テクニック、歌心を共に持ち合わせた、正統派テナー・マンに早変わり。
 

Ballads_for_trane

 
収録されているバラード曲は以下の通り。

1. Soul Eyes,  2. You Don't Know What Love Is,  3. Wise One,  4. Where Are You?,  5. Darn That Dream,  6. Theme For Ernie

う〜ん、良い選曲だ。これらコルトレーンゆかりのバラード曲を、時には旋律を噛みしめるようにむせび泣き、時には感極まった雰囲気でエモーシャルに吠え叫び、時には喜びの表情で明るく伸びやかに、縦横無尽にテナーを吹きまくる。
 
このバラードに特化した演奏を聴くと、とにかく、アーチー・シェップのテナーは上手いということを再認識する。とにかく上手い。コルトレーンが着目していた若手テナーマンだということを実感する。とにかく、聴いていてリラックスできる。聴いていて感動する。細かい説明は意味をなさない。久しぶりにこ の一言、「聴けば判る」。

パーソネルの選定、コルトレーンゆかりのバラード・ナンバーだけを固めた選曲など、ジャズ先進国、日本ならでは企画である。実に良いアルバムを残してくれたものだ。DENONレーベルに感謝したい。

 
 
 

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

 

Charlie Rouse & Red Rodney 『Social Call』

ジャズ喫茶で流したい」シリーズの第9弾である。このアルバムは、ジャズ喫茶でかけても、まず誰の演奏なのか、恐らく大多数のジャズ者の方が判らないと思う。僕も最初判らなかった。

端正でテクニック確かで歌心のある「芯のあるテナー」。もろビ・バップな音だけど柔らかで、なかなか小粋な音色を奏でるトランペット。趣味の良い、 硬質ながら流れるような正統派ピアノ。確実で硬派でしなやかなビートを供給するベース。硬軟自在、緩急自在な堅実なサポート、テクニック確かなドラム。

ビ・バップの様な、疾走感、テクニック溢れる演奏を繰り広げる冒頭の「Little Chico」。ハードバップらしさ溢れるミッドテンポでファンキーな、2曲目「Social Call」。この2曲の演奏だけで「これって誰のアルバム? パーソネルは?」と心穏やかで無くなること請け合い。
 
でも、きっと誰だか判らない。再び、アップテンポでファンキー溢れる、テナーとペットのユニゾン、ハーモニーがニ クイ、3曲目「Half Nelson」。ここまで聴き進めると、もう「アカン」我慢できん。誰のアルバムなんや〜。実は僕がそうでした(笑)。
 
このアルバム、Charlie Rouse & Red Rodney の『Social Call』(写真左)。1984年録音の渋いハードバップ作品。ちなみにパーソネルは、Charlie Rouse (ts), Red Rodney (tp), Albert Dailey (p), Cecil Mcbee (b), Kenny Washington (ds)。これぞハードバップって感じで、アグレッシブに、はたまたリリカルに、実に味わい深い演奏を聴かせてくれる。
 

Social_call

 
バラード演奏も秀逸。5曲目の「Darn That Dream」なんぞ、惚れ惚れする。情感タップリに歌い上げていくチャーリー・ラウズのテナー。まあるく優しいトーンで語りかけるように吹き上げるレッド・ロドニーのトランペット。リリカルに堅実に硬派なバッキングを供給するアルバート・デイリーのピアノ。当然、リズムセクション、セシル・マクビーの ベースとケニー・ワシントンのドラムがバックにあっての、秀逸なバラード演奏である。

チャーリー・ラウズとは誰か。伝説のピアニスト、セロニアス・モンクとの共演で最も知られるテナーサックス奏者です。ラウズはモンクとの相性が抜群でした。テクニックに優れ、スケールの広い、モンクの音にぴったり呼応して、モンクの様に予期せぬフレージングで吹くことが出来ました。
 
ですから、僕としてはモンクのバンドのテナー奏者という印象が強く、この『Social Call』の様に、端正でテクニック確かで歌心のある「芯のあるテナー」を吹くとは思わなかった。

とにかく、まずは「ラウズのテナーにビックリしながら、ラウズのテナーに酔う」一枚です。そして、ラウズの「芯のあるテナー」に、もろビ・バップな 音だけど柔らかなロドニーのペットはピッタリ。選曲もお馴染みの曲が多く、1980年代前半のフュージョン全盛時代過ぎ去り後の、上質なハードバップ演奏が聴けます。絵に描いたような「ハードバップ」な一枚とでも言ったら良いでしょうか。良いアルバムです。
 
 
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
 
 

Cedar Walton『Cedar!』

Cedar Walton(シダー・ウォルトン) というピアニストのキャリアはかなり長い。Art Blakey & Jazz Messengers にも参加していたんだが、あまり大衆受けはせず、どちらかと言えば「玄人好み」。
 
以前、村上春樹さんが、著書「意味がなければスイングはない」で、シダー・ウォルトンをとりあげているのを読んで、ちょっとビックリしたのを覚えている。

1934年1月生まれ。1955年頃にニューヨークに進出。1960年代の初め、ピアニスト、アレンジャーとして、Art Blakey & Jazz Messengersに籍を置き、Freddie Hubbard (tp), Curtis Fuller (tb), Wayne Shorter (ts), Reggie Workman (b) と活動をともにした。1964年、Jazz Messengersを脱退後はフリーで様々なミュージシャンとアルバムを残している。

どちらかといえば派手さは無く、じっくり聴かせるピアニストである。ピアノの音の芯が崩れない、というか、音の強弱、音の緩急によって音が崩れること無く、クッキリしているのが特徴かな。テクニックは優秀。作曲家としての才も大いにある。

そんななぜかマイナーな位置に甘んじているシダー・ウォルトンの「お気に入り」盤の一枚が、1967年リリースの『Cedar!』(写真左)。パー ソネルは、Junior Cook (ts), Kenny Dorham (tp), Billy Higgins (ds), Leroy Vinnegar (b), Cedar Walton (p)。
 

Cedar_29

 
フロントのジュニア・クックとケニー・ドーハムの参加が目を惹くが、どちらもあまりパッとしないんですよね、これが。で、何故このアルバムが「お気に入り」盤かというと、当然、シダー・ウォルトンのピアノが素晴らしいからです(笑)。

収録曲は「Turquoise Twice」「Twilight Waltz」「Short Stuff」「Head and Shoulders」の4曲は、シダー・ウォルトンのオリジナル。「My ship」「Come Sunday」「Take The A Train」(CD追加曲)の3曲はスタンダード。ウォルトンのオリジナル曲は、モーダルな雰囲気が魅力的で、なかなか配慮が行き渡っており、作曲家としての魅力も満喫できます。

なかでも、3曲目の「My Ship」は、フロント抜きのピアノ・トリオ編成での演奏で、ウォルトンのピアノが、心ゆくまで堪能できます。続く4曲目の「Short Stuff」は、軽妙でクッキリとしたタッチが聴き所の楽しい曲で、聴き応え十分です。この2曲がハイライトでしょうか。
 
決して、フロントの2人(クックとドーハム)に期待して、聴いてはいけないアルバムではあります。でも、そんなに酷くないんですけどね〜。絶好調の時の2人の演奏を知っているだけに「何、はっきりせんと、ぼんやり吹いてるの?」って感じなんですね。でも、その2人のフロントを減じて余りある、Billy Higgins (ds), Leroy Vinnegar (b), Cedar Walton (p) の3人。振り返れば、このトリオ編成だけで録音すれば良かったのに、とも思いますね。

なかなか話題に上がらないアルバムですが、シダー・ウォルトンを愛でるには絶好のアルバムだと思います。ジャズ喫茶で流したいアルバムでもあります。はっきりせんと、ぼんやり吹いているフロントの2人に幻惑されて、誰のアルバムなのか、いつの時代のアルバムなのか良く判らなくなる、ジャズ者にとっては、面倒なアルバムです(笑)。
      
     
    
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
  
  

George Wallington『Complete Live at the Caf Bohemia』

ジャズはライブに限る。大衆音楽の範疇ではあるが演奏テクニックに優れ、コード進行は複雑、そして、再現性の無い、一発瞬間芸なところが魅力のジャズ。そんなジャズの真価を感じるにはやはりライブである。

70年代ロックの世界ではライブは鬼門だった。スタジオ盤はスタジオで編集加工されているので、出来が良い。しかし、その編集加工されたものをライブで再現出来るかと言えば、なかなかそうはいかない。70年代ロックではスタジオ盤に感じ入って、ライブに足を運んで、そのショボさに幻滅すること も少なくなかった。

しかしジャズは違う。確かにライブなので「出来不出来」はあるが、70年代ロックとは次元が違う。やはり、ジャズを楽しむにはライブに足を運ぶに限る。
 
とは言え、そんな優秀なライブを聴かせるライブハウスはそんなに多くはない。しかも、それなりに有名なミュージシャンだとチャージ料も値が張る。そういう時はライブ盤を購入して、家のステレオにて、擬似ライブハウスとして楽しむのも手である。

ジャズのライブ盤は多々あるが、最近、手に入れて、ちょっとヘビー・ローテーションになっているライブ盤がある。George Wallingtonの『Complete Live at the Caf Bohemia』(写真左)。
 
1955年9月の録音。パーソネルは、Donald Byrd (tp), Jackie McLean (as), George Wallington (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。うへ〜っ、錚々たるメンバー。錚々たるメンバーの若かりし頃である。
 

George_wallington_bohemia

 
このアルバムは、先にリリースされ、ライブ盤として定評のある『George Wallington Quintet at the Bohemia』(写真右)のコンプリート盤。CD2枚組。今のところ、米国のみでの発売。2007年に突如再発された。

もともと『George Wallington Quintet at the Bohemia』は、ジャズ・ライブ盤としては定盤。録音年は1955年。ジャズのトレンドは、ビ・バップからハード・バップへ移行。このアルバムは、若かりし頃のDonald Byrd (tp), Jackie McLean (as), Paul Chambers (b) のテクニック溢れる、溌剌としたライブ演奏を捉えている。

収録されたどの演奏もライブ感溢れる優れものばかり。ビ・バップの様にテクニックを競うアドリブもあれば、ハード・バップの特徴である、良くアレンジされた知的なハーモニーやユニゾンがあり、それぞれのソロは技術を尽くし、その優れたアドリブが堪能出来る。初期ハード・バップ時代の優れたライブ盤と言える。

リーダーの George Wallingtonのピアノはビ・バップ調でありながら、優雅な響きが特徴。決して下品に弾かない。決してテクニックをひけらかさない。優雅な響きと確かなテクニックでしっかりとハード・バップなピアノを聴かせてくれるところがまた良い。

この『Complete Live at the Caf Bohemia』はCD2枚組。総演奏時間は2時間ちょっと。冒頭の「Johnny One Note」からラストの「Bumpkins (Alternate Take)」まで、熱気溢れる、実に楽しいハード・バップな演奏が聴ける。

リクエストの無い、暇な時間帯のジャズ喫茶でマスターの一存で全曲をずっと流したい、そんな感じのするライブ・アルバムです。1955年のライブ・ハウス「カフェ・ボヘミア」にタイム・ワープした様な錯覚を感じる位に臨場感溢れる演奏が実に楽しいです。

 
 

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

 

Art Blakey & The Jazz Messengers『Impulse』

Art Blakey & The Jazz Messengersの『Impulse』(写真左)である。

Art Blakey & The Jazz Messengersには、グループ名そのままのアルバムが、3枚以上あって紛らわしいのだが、一番有名なブルーノートのそれは『Moanin'』と呼ばれ、後の2枚は、リリースしたレーベル名で呼ばれる。今日、ご紹介するのはimpulseレーベルから、もう一枚は、Columbiaレーベルから(ジャズ喫茶で流したい・第5回参照)である。

この『Impulse』は、1961年6月の録音。パーソネルは、Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), Wayne Shorter (ts), Bobby Timmons (p), Jymie Merritt (b), Art Blakey (ds)。
 
フロント3管の時代。ペットのモーガン、サックスのショーター、そして、トロンボーンのフラー。最強の3管フロントである。リズムセクションも、ピアノは黒くてファンキーなピアノが売りのティモンズ、堅実ベースのメリットと玄人好みの二人をシッカリ残している。そして、ドラムはブレイキー御大。
 
このメンバーの演奏で悪かろうはずがない。冒頭の「Alamode」を聴いただけでワクワクする。モーガンの、ちょいと捻りを入れた、鯔背なペットは聴いていて惚れ惚れするし、コルトレーンっぽい音は残っているものの、ウネウネ〜、フゲゲゲ〜といったショーター独特の咆哮がそこかしこに聴かれ、これが実に魅力的。
 

Art_blakey_inpulse

 
しかし、何と言っても、フラーのトロンボーンの音色が効いている。トロンボーンのボヨヨンとした、ちょっとノンビリした音色が、尖ったモーガンのペット、ショーターのテナーの攻撃的な演奏をホンワカと包むように受け止める。そして、ソロは目が覚めたようにブラスの響きを「ブリッブリッ」とさせながら、力強いソロを取る。

僕はこのペットのモーガン、サックスのショーター、そして、トロンボーンのフラーの「フロント3管時代」が、Art Blakey & The Jazz Messengersの活動の歴史の中で最強の編成だと思っている。
 
とにかく、ソロをとってみても、ユニゾンをとってみても、アドリブをとってみても、 どれも上質のハードバップである。しかも、時代は1960年代に入り、そのハードバップの演奏内容は内容的に頂点に達しており、それはそれは聴き惚れんばかりの、それはそれは魅力的で「これぞジャズ、これぞハードバップ」って感じなのだ。

このアルバムはジャズ者初心者の方々にも「お勧めの優れもの」です。が、CDとしては廃盤状態みたいで、現状では、iTunes Storeなど、ダウンロードサイトからの入手になりますね。
 
このアルバムの様に、なかなか廃盤状態とかで、一般にCDとして入手できないアルバムは、そ れこそジャズ喫茶の出番ですね。そういう意味で、このArt Blakey & The Jazz Messengersの『Impulse』は、ジャズ喫茶で是非流したいアルバムの一枚です。 

 
 

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

 

Art Blakey『The Jazz Messengers』(Columbia)

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの第5弾。自分が本当のジャズ喫茶を持っていたなら「こんなアルバムを流したい」というような、ちょっとマニアックだけれど、ジャズ者初心者の方々にも楽しめるアルバムをご紹介している。その5枚目である。

これは、なかなか面白いアルバムである。Art Blakey『The Jazz Messengers (Columbia)』(写真左)。じっと聴けば、バックのドラムはアート・ブレイキーなのは直ぐに判る。ということは、ジャズ・メッセンジャースのアル バムなんだろうと想像はつく。

音を聴くと収録年はかなり古い時期のものだということも判る。音の様子から1950年代前半〜半ばの音の雰囲気である。演奏のトレンドは、ハード バップ初期。未成熟ではあるが、ハードバップ演奏の骨子はしっかりと組み込まれている。ハードバップ初期のジャズメッセンジャースか、と「あたり」をつけ る。

ピアノは、そこはかとなくファンキー香る、ホレス・シルバーだと判る。だとすると、ブレイキー&シルバーが席を同じにした、初期のジャズ・メッセン ジャースの演奏と確信する。ちなみに、ベースはダグ・ワトキンス。しかし、この溌剌としたトランペットは誰なんだ。このガッツのあるテナーサックスは誰な んだ? という疑問がわく。

とにかく、全編に渡って、はちきれんばかりのブラスの響きを煌かせながら、溌剌とした、テクニック溢れるトランペット。この頃には、既にブラウニー(クリフォード・ブラウン)はいない。逆に、ブラウニーのような天才的な驚嘆もののトランペットとは、ちと違う。誰だ? 
 

Jazz_messengers

 
パーソネルを見ると、ケニー・ドーハムとある。「ええっ〜」と思う。これが、ケニー・ドーハムのトランペットなのか? ドーハムのペットって、もっと穏やかで、テクニック的にも、もうちょっと、ふらつきがあるんじゃあなかったっけ。このセッションでのドーハムは違う。吹き まくっている。ここまで吹けるトランペッターだったことに、ちょっと驚く。

同様に、このガッツ溢れ、ガンガン吹きまくるテナーは誰だ? といって、テクニック的には超絶技巧とまではいかない。超絶技巧とまではいかない、ということは、ロリンズでもコルトレーンでもない。でも、音も太く、勢 いで吹ききるその様は、絵に描いたようなハードバッパーそのもの。誰だ?

パーソネルを見ると、ハンク・モブレーとある。「ええっ〜」と思う。これが、ハンク・モブレーのテナーなのか? モブレーのテナーってもっと穏やかで、もっと細身の音色ではなかったか。特に、音の太さには驚く。モブレーって、ここまで吹けるテナー奏者だったことに、 ちょっと驚く。

このアルバムの面白さは、絵に描いたようなハードバップ的な演奏が、よどみなく、全編に渡って繰り広げられていること、 そして、溌剌としたケニー・ドーハムのペット、とガンガン吹きまくるハンク・モブレーのテナーの存在。これ、ジャズ喫茶でかかったとしたら、このペットと テナーって誰だ?って、絶対にジャケットを確認にいってしまう。

意外や意外、初期ジャズ・メッセンジャースの「隠れ名盤」だと思います。ジャズアルバムの紹介本、ましてや、初心者向けの案内本には、全くといって よいほど、取り上げられることの無いアルバムなんですが、これって、ドーハムとモブレーの意外性もあって、お勧めのアルバムです。

絵に描いたようなハードバップ的な演奏が、よどみなく、全編に渡って繰り広げられていて、聴き進めていくうちに元気が出てくる、ポジティブな内容のアルバムです。夏の暑さを吹き飛ばすように、大音量でジャズ喫茶でかけたいアルバムのひとつです。
 
 
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
 
 

John Lewis『Improvised Meditations & Excursions』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ第4弾。ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が、「これ、何て言うアルバム」って、ジャケットを見に来るような、そんなアルバムを、ジャズ喫茶では流したい。ということで、今日は、John Lewis(ジョン・ルイス)である。

ジョン・ルイス。1920年生まれ、2001年没。ディジー・ガレスピー楽団にてデビューし、以降チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィスなどと共演。1952年にMJQ(Modern Jazz Quartet)を結成、以来、終生にわたってMJQのリーダー格として活動、ビ・バップを基調にしながら、サロン音楽的な、端正かつクラシカルな音楽性を確立した。

であるが、MJQのルイスとソロでのルイスとは、そのピアノの作風がガラッと変わる。特に、1950年代から60年代のルイスは実に味わい深くて僕は大好きだ。どう味わい深いか、というと、このアルバムを聴いて貰えると直ぐに判る。

『Improvised Meditations & Excursions』(写真左)、邦題は『瞑想と逸脱の世界』。邦題を見ると、物々しくて、ちょっと敬遠したくなるが、収録曲を見て欲しい。

1. Now's the Time
2. Smoke Gets in Your Eyes
3. Delaunay's Dilemma
4. Love Me
5. Yesterdays
6. How Long Has This Been Going On?
7. September Song
 

Improvised_med_ex

 
そう、ズラーッと並ぶ、ジャズ・スタンダードの数々。このジャズ・スタンダードを弾くルイスが、一番、ルイスの個性を確認することが出来て、大のお勧めである。パーソネルは、John Lewis (p), Percy Heath ,George Duvivier (b), Conny Kay (ds)。

ルイスのピアノは、至ってシンプル。ジャズ・スタンダードの持つ美しい旋律をなぞるように、しかしながら、小粋にインプロビゼーションを展開してい く右手。その右手の展開の隙間に、そこはかとなく、合いの手を入れるような、左手のコンピング。曲の持つ旋律の美しさ、旋律の躍動感を前面に押し出しつつ、ジャジーな色づけを小粋につける。このシンプルさと小粋さが、ルイスのソロの時のピアノの特徴である。

そして、シンプルな展開の底に、しっかりとブルージーな雰囲気と「黒い」ビートが見え隠れして、いかに旋律を追いやすい、シンプルなピアノだからと言って、軽音楽風なカクテル・ピアノ風な演奏にならないところが、ルイスの優れたところ。

それから特筆すべきは、コニー・ケイのドラミング。シンバル・ワーク、特に、シンバルの音色が実に美しい。シンプルで小粋なルイスのピアノに格好のアクセントとなっている。そして、曲によって変わる、ヒースとデュビビエのベース。太くて堅実なビートを供給する。

これぞ、ピアノ・トリオの「お手本的」なアルバムの一枚です。全体の収録時間が37分弱とちょっと短いですが、逆にかえって、冗長とならずに「飽き ない」、かつ、もうちょっと聴きたいと思って、2度ほど、聴き直してしまいます。とにかく、内容のあるピアノ・トリオは、繰り返し聴いても飽きない。そんな基本的なことを思い出させてくれる『瞑想と逸脱の世界』である。
 
 
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
  
 

Charles Mcpherson『Live At The Cellar』

ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が、「これ、何て言うアルバム」って、ジャケットを見に来るような、そんなアルバムを、ジャズ喫 茶では流したい。ジャズ者の皆さんが、買うのに躊躇う、手に入れるのに悩む、でも、実のところ、ジャズとしてなかなかの内容のアルバム。そんなアルバム を、ジャズ喫茶で流したい。

このアルバムも、もし僕がジャズ喫茶のマスターだったら、さりげなく流したいアルバムの一枚である。 Charles Mcpherson(チャールス・マクファーソン)の『Live At The Cellar』(写真左)。

Charles Mcpherson(チャールス・マクファーソン)。1939年7月24日ミズーリ州ジョブリン生まれ。1959年、ニューヨークへ進出し、バリー・ハリ ス(p)に師事。1960年代に入り、この時代には珍しいパーカー派のアルト・サックス・プレイヤーとして注目され始め、頭角を現す。『ミンガス・アッ ト・モンタレイ』の録音に参加。ときて、ああ〜、あのアルト奏者ね、と思い出す方は、かなりのジャズ者でしょう。

パーカーの伝記映画「Bird」でパーカーの吹替演奏パートを担当したことでも有名、とくれば、ああ〜、あのアルト奏者ね、と思い出す方も、やっぱり相当なジャズ者でしょう。
 

Charles_mcpherson_live_cellar

 
なぜか日本ではマイナーな存在。しかしながら、パーカー直系と言われながらも、パーカーの単なるフォローに留まらず、モーダルで、アブストラクトな 演奏を交え、しかもハード・バップ的な歌心ある旋律を重ねていく、パーカーを基調としながらも、ジャズ・サックスの先端のトレンドをしっかりと吸収した、 彼の先進的なアルトは、実に印象深く、実にエモーショナルである。

今回ご紹介している『Live At The Cellar』は、1曲の収録時間が10分を超える熱演が、ズラ〜っと6曲続く。熱演に次ぐ熱演。マクファーソンのアルトの音色は、熱気溢れるブロウなが ら、清々しく潔く、聴き応え満点。ちなみにパーソネルは、Charles McPherson(as), Ross Taggart(p), Jodi Proznick(b), Blaine Wikjord(ds)。

う〜ん、馴染みの無いミュージシャンばっかりやなあ。でも、演奏の水準は高く、バップ系アルト・サックスを愛でるには格好のライブ・アルバムです。 こんなライブ・アルバムがあったなんて、このアルバムを初めて聴いた時には、自らの不明を恥じました。う〜ん、ジャズの世界は、とことん奥が深いなあ。だ から、ジャズって面白いんですよね〜。

良いアルバムです。お勧めです。そうそう、チャールス・マクファーソンって、ジョニ・ミッチェル(vo)によるチャールス・ミンガスへの追悼盤『ミ ンガス』のレコーディングにも参加しているんですよね。とくれば、ああ〜、あのアルト奏者ね、と思い出す方も、やっぱり相当なジャズ者ですね。

 
 

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

 

Denny Zeitlin『Tidal Wave』

ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が、「これ、何て言うアルバム」って、ジャケットを見に来るような、そんなアルバムを、ジャズ喫 茶では流したい。ジャズ者の皆さんが、買うのに躊躇う、手に入れるのに悩む、でも、実のところ、ジャズとしてなかなかの内容のアルバム。そんなアルバム を、ジャズ喫茶で流したい。

このアルバムも、もし僕がジャズ喫茶のマスターだったら、さりげなく流したいアルバムの一枚である。 Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)の『Tidal Wave』(写真左)。

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)とは、1938年シカゴ生まれのピアニスト。大学時代は、なんと医学を専攻。並行して、作曲と音楽理論を学んだとい う、ジャズ界の知的エリート。流石にリーダー・アルバムなどは僅少、かなり寡作なジャズ・ピアニストです。

でもって、そんな寡作な、精神科医と掛け持ちのジャズ・ピアニストが、なぜ、ジャズ者の世界の中で、名前を留め続けることが出来るのか。それは、彼の端正で硬質でダイナミックなピアノにある。

一聴した時は誰だか判らない。でも、聞き終えた後、何故か心に残る。これが、デニー・ザイトリンのピアノの特徴。何故だか詳しいことは判らないんだけどね。本当に、何故か心に残る、ザイトリンのピアノ。

そのザイトリンが、1983年に残したアルバム。パーソネルは、Charlie Haden (b), Denny Zeitlin (p), John Abercrombie (g), Peter Donald (ds)。特に、John Abercrombieとのコラボが素晴らしい。
 

Tidal_wave

 
唯一ソロによる演奏の「Billie's Bounce」で、ザイトリンのピアノの特徴が判る。端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、ぎりぎりフリーキーな、それでいて、ジャズの伝統の範囲 内にしっかりと留まった理知的な演奏。この知的、理知的という部分が、ザイトリンのピアノ最大の特徴。

John Abercrombieのギターは、エフェクトを「ガッツリ」効かせた、捻じれに捻れた、プログレッシブなジャズ・ギター。暴力的な感じではあるが、実は 繊細なフレーズの積み重ねが実に素晴らしく、John Abercrombieって、こんなに機微を心得た、陰影、起伏溢れるギタリストだったのか、と感動を覚える位の素晴らしい演奏です。

その変幻自在、プログレッシブなギターを支える、ザイトリンの伝統的で端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、Charlie Hadenのタイトで重量感のあるベースが支える。そして、Peter Donaldのフリーなドラミングが、他のメンバーの演奏により自由を与え続ける。

このアルバムって、相当水準が高いと思います。1983年、フュージョンの時代が去った、ジャズの「踊り場」の時代。そんな時代に、この高水準な純ジャズの存在。いや〜、ジャズって、本当に懐の深い音楽ジャンルだと、改めて感心することしきり。

こんなアルバムの演奏が、ジャズ喫茶のスピーカーから「さり気なく」流れている。そんな仮想のジャズ喫茶を想像するだけで、なんだかドキドキしてしまいます。もし、このアルバムの存在を知らない頃だったら、僕は、絶対にマスターに思わず訊きにいきますね。「あの〜、このアルバム、誰の何て言うアルバムですか?」。

 
 

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

 

« 2012年7月 | トップページ | 2014年1月 »

リンク

  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。
  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。
  • ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログ
    ジャズ喫茶『松和』は、ネットで実現した『仮想喫茶店』。マスターの大好きな「ジャズ」の話題をメインに音楽三昧な日々をどうぞ。このブログがメインブログです。