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もしも、リアルなジャズ喫茶をやるなら、どうも「定盤」アルバムは流すのが憚られる。リクエストされたら仕方が無い。でも「定盤」アルバム は誰もが知っている、誰もが推薦するアルバムである。なにも、ジャズ喫茶のマスターが「これどうぞ」と薦めるアルバムでは無いだろう。

ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が「これ、何て言うアルバム」って言いながらジャケットを見に来るような、そんなアルバムをジャズ喫茶では流したい。ジャズ者の皆さんが買うのに躊躇う、手に入れるのに悩む、でも、実のところ、ジャズとしてなかなかの内容のアルバム。そんなアルバムをジャズ喫茶で流したい。
 
 
『ジャズ喫茶で流したい』・索引

第1回 : Sahib Shihab『Sentiments』
第2回 : Denny Zeitlin『Tidal Wave』
第3回 : Charles Mcpherson『Live At The Cellar』
第4回 : John Lewis『Improvised Meditations & Excursions』
第5回 : Art Blakey『The Jazz Messengers』(Columbia)
第6回 : Art Blakey & The Jazz Messengers『Impulse』
第7回 : George Wallington『Complete Live at the Caf Bohemia』
第8回 : Cedar Walton『Cedar!』
第9回 : Charlie Rouse & Red Rodney 『Social Call』
第10回 : Archie Shepp『Ballads For Trane』
第11回 : Charlie Rouse『Moment's Notice』
第12回 : Warne Marsh『Warne Marsh(Atlantic盤)』
第13回 : Jack Wilson『The Jack Wilson Quartet Featuring Roy Ayers』
第14回 : Kazutoki Umezu『Kiki』
第15回 : Arthur Taylor『Taylor's Wailers』
第16回 : Hans Ulrik『Shortcuts-Jazzpar Combo 1999』
第17回 : Benny Golson『Gettin' With It』
第18回 : Bobby Timmons『Born To Be Blue!』
第19回 : Frank Wess『The Frank Wess Quartet』
第20回 : Tommy Flanagan『The Master Trio/Blues In The Closet』
第21回 : The Great Jazz Trio『Love For Sale』
第22回 : Rickey Woodard『California Cooking』
第23回 : World Saxophone Quartet『Plays Duke Ellington』
第24回 : Eric Reed & Cyrus Chestnut『Plenty Swing, Plenty Soul』
第25回 :『Bobby Jaspar, George Wallington & Idrees Sulieman』
 

Bobby Jaspar『Bobby Jaspar, George Wallington & Idrees Sulieman』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ・第25回目である。今日は『Bobby Jaspar, George Wallington & Idrees Sulieman』(写真左)。Riverside RLP240、リバーサイド・レーベルの隠れ名盤。
 
邦題は「ボビー・ジャスパー・ウィズ・ジョージ・ウォーリントン」。なんだか、タイトルだけ見れば、客演のバップ・ピアニスト「ジョージ・ウォーリントン」に重きを置いているような扱いである。
 
原題を見れば、リズムセクションの二人が無視されているようで、もうちょっと、内容に見合ったタイトルをつけることが出来なかったのか、と悔やまれる。そ れほどに、アルバムの中身を聴けば、そんな扱いや印象はとんでもない。リーダーのボビー・ジャスパーのテナー&フルートが堪能できる、優れたハードバップ盤である。
 
ベルギー出身のテナー奏者 Bobby Jaspar(ボビー・ジャズパー)は、パリにおける活動がメインだったが、米国のジャズシーンでも活躍したので、そこそこ知名度の高いミュージシャン。1926年生まれで1963年に亡くなっているので、37歳の若さで夭折(ようせつ)したことになる。それでも、要所要所に良いアルバム、良い演奏を残してくれているのが嬉しい。
 
最も有名なのは、J.J. Johnson の『Dial J.J.5』とWynton Kellyの『Kelly Blue』への参加でしょう。ジャスパーは基本的にはテナー・サックス奏者ですが、「Kelly Blue」でのフルートの演奏も印象的です。僕は、ジャズ者超初心者の頃、この「Kelly Blue」でのジャスパーのフルートに触れて、ジャズってフルートもありなんやなあ、と妙に感心した思い出があります。
 
このアルバムはハードバップ時代ど真ん中、1957年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Jaspar(ts,fl), Idrees Sulieman(tp), George Wallington(p), Wilbur Little(b), Elvin Jones(ds)。
 
Bobby_jaspar_with_gw_is
 
ジャスパーのテナーとフルートはオーソドックスなテナーで、ハードバップ時代特有のソフトで大らかなトーン、語り口の判り易い唄い口で、心地良くリラックスしたブロウを聴かせてくれる。逆に、リズムセクションを担う、ベースのリトルとドラムのエルヴィンは意外とハードタッチで、ビシビシとビートを聴かせた 俊敏なプレイでフロントを盛り立てる。
  
この対比が実に上手く決まっていて、そこに、バップ・ピアニストのウォーリントンが、全体の音のバランスを取るように、全体の音のトーンを決めるように、実に優美なピアノを聴かせくれる。所謂「古き良きジャズ」と呼んでピッタリの内容である。
 
3曲目の有名スタンダード曲「All Of You」なぞ、絶品である。さすがに、この時代の第一線の一流ジャズ・ミュージシャンは、有名スタンダードをやらせると、とにかく上手い。ジャスパーのテナーは、少し掠れた太い音色で、この有名スタンダード曲のテーマを大らかに歌い上げていく。バックのリズム・セクションは、ガッチリとフロントのジャス パーをサポートし、演奏の音のベースをガッチリと支える。

 
5曲目のバラード曲「Before Dawn」のジャスパーのテナーも絶品。オーソドックスなスタイルを踏襲しつつ、少し乾いた音色がとても良い感じである。バラード演奏にしては、ちょっと トランペットが賑やかなのが玉に瑕ではあるが、ジャズパーのバラード演奏は申し分無い。この「Before Dawn」ジャズパーのバラード演奏が堪能できる貴重なトラックである。
 
良いアルバムです。ジャズの歴史を彩る、ジャズ者初心者向け入門本に挙がる様な名盤ではありませんが、ハードバップな雰囲気満載で、聴き始めると一気に聴き込んでしまいます。時々引っ張り出しては聴きたくなる、飽きの来ない、スルメの様な、噛めば噛むほど味が出る、聴けば聴くほど味が出る、そんなハードバップ時代の「隠れ名盤」です。 
 
 
 

Eric Reed & Cyrus Chestnut『Plenty Swing, Plenty Soul』

ジャズのアルバムには「いろいろ」ある。最高にアーティスティックなアルバムもある。テンション高い真剣勝負なアルバムもある。息が詰まりそうなハイテクなアルバムもある。しかし、ジャズ本によく載る、絵に描いた様な「名盤」ばかり聴いていると、ちょっと疲れる。
  
ただ聴いているだけで楽しい気持ちになったり、ただ聴いているだけで幸せな気分になったり、難しいことを考えず、ただ演奏される「音」を聴いているだけで、なんだか心が満たされる。なにかしながら、ただ「ながら」で聴いていても、邪魔にならず、スッと心に入ってくる。そんなアルバムと付き合うのも、長くジャズと付き合っていく上で、非常に大切な「耳のパートナー」である。
 
この、Eric Reed & Cyrus Chestnutの『Plenty Swing, Plenty Soul』(写真左)は、僕のそんな大切な「耳のパートナー」の一枚。エリック・リードとサイラス・チェスナット(写真右)の2人のピアニストの連弾ライブである。どちらも、現在、気鋭の中堅、正統派のジャズ・ピアニスト。連弾とは言っても、しっかりとリズム・セクションも付いている。Dezron Douglas(b), Willie Jones III(ds)である。2009年3月の録音。
  
NYCきっての高級ジャズ・クラブ「ジャズ・アット・リンカーン・センター ディジーズ・クラブ」でのライブ録音である。この「ライブ」というのが楽しい。演奏の途中にお客の拍手が入るが、その拍手の音が「楽しんでいる」音をして いるのだ。こういう時のジャズのライブ盤は絶対に聴いていて「楽しい」。そして、幸せな気持ちになり、心が満たされる。
 
Plenty_swing_plenty_soul
  
恐らく、パラパラコロコロと転がるようにパッセージを展開する方がチェスナット、ブロックコードを駆使しつつ、ちょっと落ち着いたパッセージを聴かせる方がリードだと思うが如何だろうか。とにかく、ドライブ感溢れる、爽快感抜群のピアノが連弾で聴くことが出来る。バラードを弾かせても、そのふくよかな歌心溢れる優雅な雰囲気は二人のピアノの共通の印象。当然、それぞれのソロもあるが、これまた甲乙付け難し。
 
「I'll Remember April 」「All the Things You Are」「Two Bass Hit」 などのスタンダードは、連弾の特徴を活かして、ピアノの旋律を奏でる音が分厚くて判り易く、音の重なりが美しい、一台のピアノだけでは聴くことが出来ない、連弾ならではのダイナミズムが実に印象的。
 
即興的に作られたと言われるアルバムタイトル曲のラストの7曲目「Plenty Swing, Plenty Soul」などは、「ど」がつくほどのゴスペル・タッチで、ピアノの響きも力強く、ファンキーで美しく、バックのリズム・セクションもバリバリに粘っていて、ライブならではのダイナミズムを大いに感じさせてくれる。これ、なかなかのもんでっせ〜。
 
そう、このエリック・リードとサイラス・チェスナットの連弾ピアノ・トリオ(と言っていいのかしら)は、連弾ならではの「ダイナミズム」が最大の「売り」。二人とも、現時点における、気鋭の中堅、正統派のジャズ・ピアニストで、テクニック・歌心・スタイル、どれをとっても一流で、安心してピアノの演奏に身を任せることができるのも、このアルバムの良さ。
 
とにかく、ただ聴いていて楽しく、幸せな気分にさせてくれる好ライブ盤です。特に、ジャズ・ピアノの好きなジャズ者の方々にお勧めです。「ながら」で聴いていても、邪魔にならず、スッと心に入ってくる。我が、バーチャル音楽喫茶『松和』では、この半年ほど、気軽に聴ける好アルバムとして、結構、ヘビーローテーションな一枚となっています。
 
 
 

World Saxophone Quartet『Plays Duke Ellington』

ジャズには定石はあれど常識は無い。演奏の編成だって、確かにソロ、デュオ、トリオ、カルテット、クインテットと編成の形式は定まってはいるけれど、その中身については全くと言って良いほど「自由」である。
 
「World Saxophone Quartet」というグループがある。デヴィッド・マレイ、ジュリアス・ヘンフィル、オリヴァー・レイク、ハミエット・ブリュートからなる4人組。「カルテット」は4人編成。この4人組は全てサックス奏者。リズムを司るドラムもベースも無い。当然、演奏の全体を統制するピアノも無い。
  
とにかく、リズムセクションが全く無い、サックスだけのカルテットがジャズを演奏し通すことが出来るのか。まずはアレンジ力が問題だろう。どうやって、リズムセクションの無い、サックス4重奏をジャズ的にグルーブさせるのか。アルト・サックス奏者のヘンフィルが作曲面で優れていたことが、この変則サックス 4重奏に幸いした。
 
そして、4人の演奏力が問題になるが、この4重奏のサックス奏者については、テクニックに全く問題は無く、アヴァンギャルドな演奏を得意とする分、ノーマルな演奏からアヴァンギャルドな演奏まで、演奏表現力の幅は広い。
 
サックスだけのカルテットという変則バンドの成否を握る「アレンジ力」と「演奏力」。この双方をクリアした「World Saxophone Quartet」の最大の名作だと僕は常々思うのは、『Plays Duke Ellington』(写真左)。
 
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エリントンのトリビュート・アルバムである。どの演奏もエリントンの名曲を実に上手くアレンジし、エリントンの名曲の特徴を良く理解し、それぞれの個性で表現している。収録された演奏の全てが、実に良い演奏である。

 
リズムセクションが全く無い、サックスだけのカルテット。どうやって、リズムとビートを供給するのか。このアルバムを聴けば、たちどころにその疑問は氷解する。バリトンとテナーがリズムを取りながら、アルトがソロを吹くといったパターンが中心。特に、バリトンの活躍が目覚ましい。
 
リズムとビートの供給が決まると、フロントのサックスの独壇場である。さすがに、4人のさっくす奏者とも、名うてのアバンギャルド・ジャズ出身。自由なソロワークが見事である。フリー・ジャズの一歩手前、しっかりと演奏のベースを押さえた、切れ味の良いインプロビゼーションが展開されていて実に見事。胸のすく思いだ。それぞれのソロ演奏が終われば、締まった4人のアンサンブルが、これまた見事。
 
この4重奏のサックス奏者については、アヴァンギャルドな演奏を得意とする分、フリー一歩手前な演奏が主となるが、決して耳障りではない。ただ、ジャズ者初心者向きでは無いだろう。フリーなジャズも聴くことが出来る様になったジャズ者中級者以上向け。
 
ジャズには定石はあれど常識は無い。リズムセクションが全く無い、「World Saxophone Quartet」。サックスだけの4重奏のエリントンのトリビュート・アルバム。このサックスだけの4重奏に「脱帽」である。 
 
 
 

Rickey Woodard『California Cooking』

こんなアルバムに出会うと、本当にジャズって奥が深いと思う。本当にジャズって裾野が広いって思う。 
   
Rickey Woodardの『California Cooking』(写真左)。1991年2月、LA の Mad Hatter Studios での録音。ちなみにパーソネルは、Rickey Woodard (as,ts), Dwight Dickerson (p), Tony Dumas (b), Harold Mason (ds)。
 
Rickey Woodardの片仮名表記では「リッキー・ウッダード」。このアルバムのリリース時のキャッチフレーズが「カントリー・ミュージックで知られるナッシュ ビルから期待の新人が登場」。1950年生まれなので、今年60歳。還暦。ベテラン中のベテランである。現在は、クレイトン=ハミルトン・ジャズ・オーケ ストラ(CHJO)の中心メンバー。活動拠点はLA。
 
このアルバムは、1991年の録音なので、41歳の頃の録音。テクニック的にも体力的にも、一番脂がのりきった頃の録音である。とにかく、収録されたどの曲でも、伸びやかに朗々と鳴るテナーが実に気持ち良い。歌心溢れるアドリブ・フレーズが実に魅力的。
 
雰囲気的には、ハンク・モブレーのテナーを切れ味鋭くしたような感じ。そこはかとなくファンキーな雰囲気が漂うところが、これまた魅力的。よくよく見渡すと、モブレーの曲が2曲収録されている。至極納得。
 
Rickeywoodard_cfcooking
  
演奏の内容は、これまた完璧な「ハードバップ」。ポジティブな軽やかさに溢れていて、聴き心地はとても「ポップ」。バックのリズム・セクションも有名 ミュージシャンでは無いがドライブ感溢れ、実にガッチリとした「ハードバップの王道」を行く正統なバッキングを繰り広げていて立派。
  
CANDIDレーベルからのリリース。1960年にスタート。監修者にジャズ評論家として名高いナット・ヘントフを迎え、活動期間はわずか2年と短かかっ たが、ミュージシャンの意欲的な姿勢をストレートに反映することをレーベル・ポリシーに活動した。現在は、新生CANDIDレーベルとしてロンドンに本社 をおき、新録音も活発に始めている。そんなマイナーかつマニアックな新生CANDIDレーベルからのリリースということが、これまた渋い。
 
後藤雅洋氏の名著「ジャズ選曲指南」にも掲載されているアルバムです。確かに、是非ともジャズ喫茶で流したいアルバムです。その内容はジャズ者初心者の方々から、ジャズ者ベテランの方々まで、幅広くお勧めできる、実に「ジャズらしい」アルバムです。 
 
 

The Great Jazz Trio『Love For Sale』

The Great Jazz Trio と言えば、ハンク・ジョーンズ (p)、ロン・カーター (b)、トニー・ウイリアムス (ds) のベテランピアニスト+中堅ジャズメン2人によるトリオ、となる。代表作としては、『At the Village Vanguard』3部作。

僕は、トニー・ウイリアムスの「ど派手」なドラミングについては、そんなに問題とは思っていない。ハードバップなドラミングを「ど派手」な方向に最大限に振ったら、トニー・ウィリアムスの様なドラミングになるだろう、と思う。

しかし、アタッチメントを付けて電気ベースの様な音に増幅された、ロンの「ドローン、ベローン」と間延びして、締まりの無いベース音がどうしても好きになれない。しかも、ピッチが合っていない。せめて、楽器のチューニングはちゃんとして欲しい。気持ち悪くて仕方が無い(1990年代以降は徐々に改 善されていくのだが・・・)。

よって、ハンク・ジョーンズのベテラン的な味のあるバップ・ピアノとトニー・ウイリアムスの「ど派手」なハードバップ・ドラミングは良いとして、ベースのロン・カーターのベースを何とかしてくれ、と思ったことが何度あったことか(笑)。が、これが「ある」から面白い。

1976年5月録音、The Great Jazz Trio単独名義のファースト・アルバムは『Love For Sale』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Hank Jones (p), Buster Williams (b), Tony Williams (ds)。なんと、ベースは、バスター・ウィリアムスなんですね〜。渡辺貞夫との共演盤でのThe Great Jazz Trioのベーシストは、ロン・カーターなんですけどね〜。つまり、ベーシストは固まっていなかったってこと。

このバスター・ウィリアムスのベースが実に良いんですよ。ブンブンと引き締まった重低音を、しっかりとピッチの合ったベースラインを、自然な生ベースの音を、実にアコースティックに聴かせてくれる。
 

Gjt_love_for_sale

 
ハンク・ジョーンズのベテラン的な味のあるバップ・ピアノとトニー・ウイリアムスの「ど派手」なハードバップ・ドラミング、そして、バスター・ウィリアムスの「しっかりとピッチの合った」ブンブンと引き締まったベース。これぞ、ピアノ・トリオって感じ。

僕は、このバスター・ウィリアムスがベースの The Great Jazz Trio を愛して止まない。けれど、この1976年5月録音の『Love For Sale』の一枚しか、このトリオでの The Great Jazz Trio の録音が無い。これが実に残念でならない。

ベースがバスター・ウィリアムスで、ビシッと決まっているお陰で、トニー・ウィリアムスのドラミングの素晴らしさが浮き出てくる。彼のドラミングは 単に「ど派手」なだけではない。伝統的なハードバップ的なドラミングを、当時最新のドラミング・テクニックで再構築しており、実に斬新的な響きのするハー ドバップ・ドラミングが実に新しい。確かに「すべっている」部分もあるが、ここでのトニーのドラミングは「温故知新」。伝統的なハードバップ・ドラミング を最新の語法で、従来の4ビートのセオリーを打ち破って、1980年代以降のハードバップ復古の時代に続く、新しいハードバップ・ドラミングを提示してい るところが凄い。

このアルバムでは有名なスタンダード・ナンバーを中心に演奏していますが、これがまた新しい響きを宿していて、ハンク・ジョーンズ侮り難しである。従来と異なったアレンジを採用したり、トニーとウィリアムスのバッキングを前面に押し出して、従来のハードバップなアプローチを覆してみたり、従来のスタンダード解釈に囚われない、そこはかとなく斬新なアプローチが、今の耳にも心地良く響く。とにかく、従来のハードバップに囚われず、逆に、トニーとウィリ アムスの協力を得て、新しいハードバップな響きを獲得しているところが実に「ニクイ」。

良いアルバムです。良いピアノ・トリオです。The Great Jazz Trioの諸作の中では、あまり話題に挙がらないアルバムですが、このアルバム、結構、イケてると思います。バーチャル音楽喫茶『松和』では、結構、ちょくちょくかかる、松和のマスターお気に入りの一枚です。
 
 
 

Tommy Flanagan『The Master Trio/Blues In The Closet』

CDの時代になって随分経つが、LP時代よりCDの方が、収録時間が圧倒的に長くなり(約45分→約70分)、LP時代のアルバムを2枚ほどカップ リングして、パッケージを変えて再リリースしたり、LP2枚組の収録曲から何曲かを落として、むりやりCD1枚に収録したりと、なにかと紛らわしいケースに時々出くわす。

昨年、米国でリリースされた Tommy Franagan の『THE TRIO』(写真右)もそうで、最初は、Tommy Flanagan (p), Ron Carter (b), Tony Willams (ds) の未発表音源かと思った。が、収録曲を眺めていて「ん〜っ」と思い始め、調べてみたら、LP時代の『The Master Trio featuring Tommy Flanagan,Ron Carter,Tony Williams』と『The Master Trio/Blues In The Closet』のカップリングと判明。どちらも、1983年6月16~17日の録音なので、まあ、カップリングしても、問題無いと言えば問題無いけ ど・・・。

でも、やはり、LP時代に2つのアルバムに分かれてリリースされていたのなら、やはりCD時代になっても、やはり分けてリリースすべきだろう。確か、この2枚のアルバムはLP時代と同様、2枚のアルバムに分けてリリースされていたはず。昨年、なぜか米国で1枚のCDにカップリグされ、新しいジャ ケット・デザインでリリースされた。紛らわしいことこの上無し。

2枚に分かれていたアルバムの内、実は『The Master Trio featuring Tommy Flanagan,Ron Carter,Tony Williams』はCD音源で既に所有してたんだよな〜。で、今回、あまり確かめもせずに、 Tommy Flanaganの『THE TRIO』を購入してしまったので、前半の7曲が「かぶって」しまったやないか〜(笑)。ちなみに、前半7曲の『The Master Trio featuring Tommy Flanagan,Ron Carter,Tony Williams』については、2008年8月2日のブログ(左をクリック)で、ご紹介しているので、こちらをご参照されたい。

さて、僕がLP時代より愛して止まないのが、Tommy Flanagan の『THE TRIO』の後半7曲で構成される、1983年作品『The Master Trio/Blues In The Closet』(写真左)である。The Great Jazz Trioの路線を狙った、日本企画の二番煎じ的なトリオの作品なんですが、さすがに、Tommy Flanagan (p), Ron Carter (b), Tony Willams (ds)という、名うての名手揃い。これがなかなか渋い内容のピアノ・トリオです。
 

Franagan_blues_in_the_closet

 
ちなみに収録曲は以下の通り。

1. Good Bait
2. Afternoon In Paris
3. Giant Steps
4. Blues In The Closet
5. Sister Sheryl
6. My Ship
7. Moose The Mooche

1枚目の『The Master Trio featuring Tommy Flanagan,Ron Carter,Tony Williams』は、ちょっと気恥ずかしくなるような大スタンダード大会だったので、「ちょっとなあ〜」という感じで、ちょっと「ひき」ましたが、この 2枚目の『The Master Trio/Blues In The Closet』は、ちょいと捻りの効いた選曲が「小粋」です。

このアルバムでのフラナガンは「主役」なので、「伴奏の名手」は封印し、あくまで、メイン奏者として、ハイテクニックで端正な「ハードバップ・ピアノ」を聴かせてくれます。特に冒頭の「Good Bait」は、旋律の音の流れがちょっと捻くれていて、ウッカリするとミスタッチ連発、それが嫌で慎重に弾くと、ノリがてきめん悪くなるという厄介な曲なんですが、フラナガンは、いともたやすく端正に弾き上げていきます。

また、ここでのロンのベースは、まずまずベースのチューニングがなされて、ハイテクニックを駆使して弾き進めるロンのベースの音が気持ち悪くありません(笑)。1970年代のロンのベースは、チューニングが甘く、音をアタッチメントで増幅していたのか「ドロ〜ン、ボヨ〜ン」としたブヨブヨしたベース音で、とにかく気持ち悪い演奏が多かった。さすがはベースの達人の一人、ロン・カーター。ベースのチューニングが合えば、なかなかのベースになりますね〜。ロン独特のベースの個性がやっと聴き取れるようになった。

トニーは、1970年代、The Great Jazz Trioでは、全面にしゃしゃり出ることが多く、ドラミングもバスドラを多用した「ど派手」なもので、演奏する曲によっては、ちょっと「眉をしかめる」出しゃばり様でしたが、このアルバムでは、しっかりとフラナガンのバックについて、極上のビートを供給し、堅実に「タイムキーパー」の任を果たしています。トニーも1980年代に入って、グッと大人になったなあ、と感じられる、伴奏に徹したドラミングには好感が持てます。

良いピアノ・トリオです。この『The Master Trio/Blues In The Closet』については、外は「うだる暑さ」の中、涼しいジャズ喫茶のノンビリした夏の午後に流すイメージですね。肩肘張ること無く、心地良く聴き流しの出来る、ピアノ・トリオ入門盤としても適した、意外と玄人好みのアルバムだと思います。 
 
 
 

Frank Wess『The Frank Wess Quartet』

ジャズの世界で「フルート」という楽器はマイナーである。そんなに難しい楽器だとは思わないのだが、音質が細く音量が不足しているところが、ちょっ とジャズに不向きと感じるからだろうか。ジャズの世界でフルート専門のジャズ・ミュージシャンというと、ヒューバート・ロウズ、ハービー・マン、ボビー・ ジャスパー、位かな。でも、この3人だって最初はサックス奏者。サックスとフルートの併用から、フルートに専門特化したクチである。

確かに、不思議とアルト・サックスの奏者がその余芸としてフルートを吹く例が幾つかある。日本の至宝、渡辺貞夫がそうだし、フランク・ウエス、ルー・タバキン、エリック・ドルフィーなどがそう。う〜ん、ひとつひとつ考えて名前を挙げていけば、ジャズ・フルート奏者って結構いるなあ(笑)。

ということで、今日は「フランク・ウエス」の隠れた優秀盤をご紹介する。フランク・ウエスは、本業はテナー・サックス、余芸としてフルートを吹くクチである。Frank Foster (ts) とともにベイシーバンドの名物となった「Two Franks」のかたわれ。テナーマンとしてより、1950年代以降のベイシー楽団のウリの一つとなった「フルート」を定着させたマルチリード奏者のハシリ。ジャズ紹介本でよく挙げられる有名盤では『Opus de Jazz』のフルートが忘れられない。

この「フランク・ウエス」のフルートが、実に味わいがあって良い感じの、隠れ優秀盤をご紹介します。その名も『The Frank Wess Quartet』(写真左)。なんだか、そのまんまのタイトルですね(笑)。でも、このアルバムのジャケットをご覧下さい。なかなか味わい深いジャケットでしょう。純ジャズ、ハード・バップ「ど真ん中」という雰囲気がプンプンするジャケット・デザイン。ウエスの横顔の写真にあしらわれたタイポグラフィー が、これまた「ジャズ」である。

ちなみに、パーソネルは、Frank Wess (ts, fl) Tommy Flanagan (p) Eddie Jones (b) Bobby Donaldson (ds)。1960年5月の録音。Prestige の傍系「Moodsville」からのリリース。ジャズをムード音楽として、鑑賞音楽として、生活のBGMとして聴こうというジャズシリーズのレーベル 「Moodsville」からのリリースである。聴き心地は満点。
 

Frank_wess_quartet

 
フランク・ウエスの十八番のフルートとテナー・サックスが交互に演奏される。最初の「It's So Peacful In The Country」がウエスのフルートで始まるところが、ウエスにとってもフルートが特別なものであったのかもしれない、と思わせる。といって、テナー・サックスがフルートに劣るどころか、ウエスのテナー・サックスには独特の味がある。この『The Frank Wess Quartet』というアルバムは、ウエスのテナーとフルートを、心ゆくまで堪能できる優れものである。

収録されたどの曲も、バラードはバラードなりに、スタンダードはスタンダードなりに、ハードバップ・チューンはハードバップ・チューンなりに、遅すぎず速すぎず、実に心地良いユッタリした余裕のあるテンポで演奏される。良い感じです。ウエスのフルート、テナーは言うに及ばず、トミー・フラナガンのピアノが素晴らしい。

セッションの雰囲気、狙いによって、しっかりとピアノを弾き分けることが出来る、ジャズ・ピアノの職人トミー・フラナガン。ここでも、この職人芸的ピアノは健在。というか、彼の伴奏者としての屈指の名演を披露していると言っても良い。しっかりとしたタッチ、香る歌心、仄かに底に横たうブルージーな感覚。このフラナガンのピアノとウエスのテナー&フルートがベストマッチ。ジャズを聴いているなあ、と心から実感する至福の時が訪れる。

Eddie Jones (b) Bobby Donaldson (ds)も良い感じである。名前は通っているメンバーでは無いが、Eddie Jonesのウォーキング・ベースが堅実で、かつブンブン震えていて良い。Bobby Donaldsonの地味ではあるが、味のあるリズム・キープは一目置いて良い。

このアルバムに関しては、難しい解説は要らない。「聴けば判る」。このアルバムを聴けば、心からリラックスして音に耳を傾け、心から「ジャズってええなあ」と思える、そんなジャズ喫茶のキラー・アイテムの一枚です(笑)。ジャズを聴き始めて、ジャズを聴いてリラックスしたいなあ、と思った時に絶対のお勧めです。今では、輸入盤CDで大手ネットショップで入手できます。良い時代になりました(笑)。 
 
 
 

Bobby Timmons『Born To Be Blue!』

ジャズ・ピアニストで、「ファンキー」なジャズ・ピアニストと問われれば、私としては、まず、ホレス・シルバーが浮かび、そして、次にボビー・ティモンズ。

ボビー・ティモンズについては、今年の5月6日のブログ(左をクリック)「ピアノ・トリオの代表的名盤・12」と題して『This Here Is Bobby Timmons』をご紹介した。ボビー・ティモンズのバイオグラフィーについては、この記事をご覧頂きたい。

今回は、そんなファンキー・ピアニスト、ボビー・ティモンズの私の愛聴盤の一枚をご紹介したい。タイトルは『Born To Be Blue!』(写真左)。1963年8月の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Timmons (p) Ron Carter (b) Connie Kay (ds)。なかなか渋い人選である。

このアルバムは、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャースで、コテコテのファンキー・ピアノを弾きまくっていたボビー・ティモンズが、そのファンキーなイメージをグッと押さえて、アーティスティックで大人な雰囲気を全面に押し出した、実に趣味の良いピアノ・トリオ盤です。ティモンズ本人からして、自ら生涯最高傑作と評したピアノ・トリオ盤である。

ファンキーなイメージを押さえることにより、気品に満ちたソウルフルな味わい全面に浮き出てきて、ティモンズのピアノタッチが実に美しく響く。そして、その美しいピアノ・タッチの底にジンワリ漂う、ティモンズの「地」であるファンキーな雰囲気。実に趣味の良い、アーティスティックなファンキー&ソウルフルなピアノと表現すれば良いでしょうか。
 

Born_to_be_blue    

 
若き精鋭ベーシスト、ロン・カーターと、職人的バップドラマー、コニー・ケイとのマッチングが大正解。気品はMJQのメンバーであったコニー・ケイ のドラミングに因るところが大きく、趣味の良さは、モード的な雰囲気を醸しだしながらも、しっかりとバップ的なベースのビートを供給するロン・カーターに 因るところが大きい。

1963年辺りといえば、ジャズは、ポップな面では、ファンキー・ジャズからソウル・ジャズが主流となり、アーティスティックな面ではモード・ジャズが主流となっていた。そして、ボサノバが上陸し、ボサノバ・ジャズが当時の流行の最先端。そんな時代の中で、このティモンズの実に趣味の良い、アーティスティックなファンキー&ソウルフルなピアノは、実にイージーリスニング系であり、実に趣味の良いポップミュージックである。

とにかく、収録されたどの演奏も、ハード・バップな芯のある純ジャズ的な演奏であるが、難しい節回しやジャズ独特の不協和音的なインプロビゼーションは排除され、とにかく、全編、聴き易く、ファンキー&ソウルフルな明るい雰囲気の演奏ばかりで、聴いていてとても楽しく、リラックスして聴き通せる。別の仕事をしながらのBGMに良し、酒を傾けながらの粋なBGMにも良し。

さすがに、ティモンズ本人が、自ら生涯最高傑作と評したピアノ・トリオ盤だけある。もともとジャズは大衆音楽。このアルバムの様な、全編、聴き易く、ファンキー&ソウルフルな明るい雰囲気の演奏がジャズの真骨頂のひとつであることは間違い無い。そして、俗っぽさを徐々に排除しつつ、コテコ テのファンキー・ピアノを趣味の良い、アーティスティックなファンキー&ソウルフルなピアノに昇華させていった、ティモンズの研鑽に敬意を表したい。

最後に、このアルバム、ジャケットが良いです。実に雰囲気のあるジャケット写真。もうもうと立ち上る煙草の煙と深い濃紺を基調にまとめられたジャ ケットは「ジャズ」以外の何者でもない。このジャケットについては、LPサイズのジャケットを手に入れたい。そんな気にさせる実に秀逸なアルバム・ジャ ケットです。  
 
  
 

Benny Golson『Gettin' With It』

昨日、ゴルソン・ハーモニーについて語った。ゴルソン・ハーモニーの主は、テナー奏者のベニー・ゴルソン(Benny Golson)。そんなベニー・ゴルソンの実に渋い、実にハードバップらしいアルバムがある。ジャズ盤の紹介本では、決してお目にかからない、そんなマニアックなアルバムである。

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの第17弾。ベニー・ゴルソンのマニアックな一枚をご紹介する。そのアルバムの名は『Gettin' With It』(写真左)。1959年12月の録音。ベニー・ゴルソンのリーダー3作目。ちなみにパーソネルは、Curtis Fuller (tb) Benny Golson (ts) Tommy Flanagan (p) Doug Watkins (b) Art Taylor (ds)。

メンバーにしっかりと盟友のトロンボーン奏者、カーティス・フラーが名を連ねている。となると、このアルバムもゴルソン・ハーモニーが堪能できるアルバムだと想像がつく。そして、ピアノは伴奏の名手トミー・フラナガン、そして、ドラマーは、当時ファースト・コール・ドラマーの一人、アート・テイラー。ベースは早逝が惜しまれる、重厚堅実なベーシスト、ダグ・ワトキンス。パーソネルを見渡すだけで、このアルバムは、ジャズ本などでは、ほどんど挙げられることは無いけれど、その内容が期待できる、って感じのメンバー構成。

期待にたがわず、1曲目の「Baubles, Bangles and Beads」から、ドップリと絵に描いた様なハードバップな演奏が繰り広げられている。しかも、ミッドテンポで、コード進行が実にジャジー。加えて、魅惑のゴルソン・ハーモニーが炸裂する。これぞハードバップ、これぞジャズという演奏が心地良い。

全編に渡ってポイントは、やはりベニー・ゴルソンとカーティス・フラー中心に展開される「ゴルソン・ハーモニー」の響き。トロンボーンのホンワカ、ボワンとした響きと、ベニー・ゴルソンのウネウネ、ボヨヨンとしたテナーが実に良い相性。ゴルソン・ハーモニーは、ゴルソンのウネウネ、ボヨヨンとしたテナーの音を活かすことの出来る、あくまで、ゴルソンのテナーの為のハーモニーであることが良く判る。
 

Bennygolson_gettin_with_it

 
ジャズ・テナー単体で考えると、ゴルソンのテナーは決して誉められたものでは無いと、常々思っている。でも、ゴルソン・ハーモニーを奏でる場合、ゴルソンのテナーのウネウネ、ボヨヨンとした音が最適になるのだがら、ジャズは面白い。しかも、ベストな組合せは圧倒的にトロンボーン。特に、ホンワカ、ボワンとしたフラーのトロンボーンの響きが最適。ジャズって相性がとても重要だということが良く判る。

実にリラックスした内容の佳作である。フロントの2管が良質のゴルソン・ハーモニーを供給し、その勢いを受けて、それぞれのソロも充実。それをサポートするフラナガンのピアノも力強く優雅、ダグ・ワトキンスのベースは堅実堅守。そして、全体を取りまとめ、しっかりとグループサウンド全体を引き締める、名手アート・テイラーのドラム。メンバー全員がアルバム全編に渡って、リラックスしながらも、実に内容の濃い、派手では無いが地味に職人芸的テクニックを繰り広げている。

何しか聴いていて心地良いこと「この上無し」。ゴルソン&フラーのフロントにフラナガンのピアノとくれば名盤『ブルースエット』を思いだすが、どちらかと言えば『ブルースエット』は全編がキャッチャーで大向こう狙い。

でも、この『Gettin' With It』は、演奏する自分達が楽しめる、実にミュージシャンズ・アルバム的な世界。売れようとも思っていないし、受けようとも思っていない。ミュージシャン達自らが楽しむために演奏したジャム・セッションをひっそりと録音してアルバム化したような、シンプルで素直で小粋な音世界。

アルバム・ジャケットも実に渋い。Prestigeの傍系レーベルのNew Jazzからのリリースとは思えない、実に渋くて、実にジャジーなアルバム・ジャケット。このアルバムから出てくる音は、このアルバム・ジャケットから受ける印象と全く同じ音が出てきます。実にジャジーで実にハードバップな、穏やかで優しい音が素晴らしい。ゴルソン・ハーモニーの面目躍如です。
 
 
 

Hans Ulrik『Shortcuts-Jazzpar Combo 1999』

「ジャズ喫茶で流したい」特集。第16回目です。

ジャズの裾野は広い。雑誌で紹介される新譜以外にも、世界各国でジャズの新譜が多々リリースされている。マイナーな音楽ジャンルと言われる「ジャズ」。それでも、世界各国のジャズ新譜はかなりの数に上る。不思議だよな〜。利益にならないと流石にレコード会社もアルバム化しないと思うんだが・・・。

そんな多々リリースされているジャズのアルバム。たまたま、iTunesなどで試聴して、これは、と思って購入すると、これが「当たり」っていうアルバムがある。そんなアルバムの一枚が、Hans Ulrik, John Scofield, Lars Danielsson, Peter Erskineの連名のアルバム『Shortcuts-Jazzpar Combo 1999』(写真左)。

ジョン・スコフィールド(g), ピーター・アースキン(ds)の名前を見ただけで、このアルバムに触手が伸びるっていうもの。この二人の名前を見るだけで、このアルバムは普通のジャズ・アルバムではない、という直感がする。デンマークのサックス奏者ハンス・ウーリック(写真右)とラース・ダニエルソンのベースは全く知らないんですが、 ジョンスコとアースキンの名前だけで、このアルバムは、なんだか期待できる。

これが「当たり」なんですね。出だしの「About Things」で、最初に出てくるデンマークのサックス奏者ハンス・ウーリックのフレーズを聴くと「これは質の良いスムース・ジャズか」と思うんですが、その直後に出てくるアースキンのドラミングが「ただ者では無い」。アースキンのドラミングを聴くと、このアルバムは、ただ者でない、意外と隅に置けないコンテンポラリーなジャズではないか、という予感。
 

Shortcuts_ulrik

 
リズムはやや緩やか、リラックスしたビートに乗って、ハンス・ウーリックのサックスが印象的な、北欧独特の清涼感溢れるフレーズを連発する。アースキンのドラミングは実に「コンテンポラリー」。このアルバムを単なる北欧のスムース・ジャズで終わらせない。

しかし、主役は、やはり、ギターのジョンスコでしょう。ここでのジョン・スコのギターはキレまくり。鋭いナイフのように、短いフレーズやリフで攻めまくりです。決して旋律に流されない、絶対にジョンスコ風に、コンテンポラリーに「捻りまくる」。この「捻りまくり」が非常に強く、良質のジャズを感じさせてくれるんですね。

ウーリックのサックスの雰囲気は「ランディ・ブレッカー的」です。しかし、ランディの様に、パワーで吹ききるタイプではなく、繊細な表現力で勝負するタイプですね。そして、北欧独特な清涼感溢れる、拡がりのあるブロウはいかにも「欧州的」で実に個性的です。なかなか聴き応えのあるサックスです。

寒色系のアコースティック・コンテンポラリー・ジャズ。ウーリックのサックスの雰囲気が、北欧独特な清涼感溢れる、拡がりのあるブロウなので、ややもすれば「スムース・ジャズ」に傾きそうなのですが、そんな雰囲気を、グッと硬派なコンテンポラリーなジャズに引き戻しているのが、ジョンスコのギターと アースキンのドラム。そして、そこはかとなく、ラース・ダニエルソンのベースが、実にコンテンポラリーなベースなのが「決定的」。

良いアルバムです。こんなアルバムが、ひっそりと無造作に転がっているから、ジャズという世界は恐ろしい。決して、ジャズの入門本やジャズのアルバム紹介本には出てこないアルバムなんですが、これは「買い」です。実にコンテンポラリーでジャジーな雰囲気は、現代的な「ジャズ」を感じさせてくれます。 絶対に、我がバーチャル音楽喫茶『松和』で流したいですね。
 
 
 

Arthur Taylor『Taylor's Wailers』

1950年代、ハードバップ黄金時代のジャズ・レーベルの代表格が、BlueNote、Prestige、Riverside。3大ジャズレーベルと呼ばれる。

そんな3大ジャズレーベルの中で、一番いい加減というか、やっつけ的なのが、Prestigeレーベル。まず、ジャケット・デザインはやっつけ(たまに良いってものもあるが確率的には他のレーベルに比して低い)、アルバムの収録も、ジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めて、一発勝負のジャム・セッション的録音が多い。

プロデュースは意識的にアルバムを作成するのでは無く、ジャム・セッションの流れに任せて、そのアルバムの出来は、そのセッション都度の偶然に委ねているものも多々ある。しかし、そんな偶発的なものに委ねたプロデュースでも、なかなかに内容の伴ったアルバムが出来てしまうところに、ジャズの面白さがある。

さて、そんなジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めた、一発勝負のジャム・セッションの成功例の一枚が、Arthur Taylor『Taylor's Wailers』(写真左)。Arthur Taylorは、アート・テイラーとも呼ばれ、ハードバップ時代のセッションドラマーの代表格。ハードバップ時代の名盤、佳作にドラマーとして名を連ねることが多い、当時、ファーストコールなドラマーである。

そんなアート・テイラーが名目上のリーダーとなって、ジャズ・ミュージシャンを適当に集めて、適当にリーダーを決めた一発勝負のジャム・セッションの演奏をまとめたアルバムが『Taylor's Wailers』。しかし、この『Taylor's Wailers』のリリースは、1957年2月25日と3月22日。

ちなみに3月22日のセッションは、John Coltrane (ts)を交えた、Coltrane中心のセッションからの収録。3月22日のセッションからの収録は、2曲目の「C.T.A.」のみである。この2曲目の「C.T.A.」だけがメンバーも雰囲気も違う。ちなみに、パーソネルは、John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b)。そんな全く異なるセッションから曲を寄せ集めてアルバムを作ってしまういい加減さもPrestigeレーベルならではの仕業である(笑)。
 

Taylors_wailers

 
2曲目の「C.T.A.」以外の他の5曲は同一メンバーでのジャム・セッションとなってる。ちなみに、そのパーソネルは、Art Taylor (ds), Jackie McLean (a), Charlie Rouse (ts), Donald Byrd (tp), Ray Bryant (p), Wendell Marshall (b)。ファンキーでドライブ感のあるピアノが特徴のレイ・ブライアントと、セロニアス・モンクの下を離れたチャーリー・ラウズの参加が興味津々。

アルバム全体を聴き通すと、確かに2曲目の「C.T.A.」だけが演奏の雰囲気が違う。テナー・ソロはどう聴いてもコルトレーンである。ピアノはどう聴いてもガーランド。なんで、この曲だけ明らかにメンバーが違うと判るのに、この1曲だけを、他のジャム・セッションの演奏曲と混ぜてアルバム化したのか、理解に苦しむ。聴く者の耳を軽視しているとしか思えない。プロデューサーのボブ・ワインストックに訊いてみたい位だ。

それでも、異質な2曲目の「C.T.A.」に、他の5曲も併せて、ハードバップな演奏が実に色濃く、絵に描いた様なハードバップ的な演奏を楽しめる好盤となっている。これだけいい加減にアルバム化している割に、ハードバップの印象、雰囲気を強く感じる事が出来る。これぞ「Prestigeマジック」 である(笑)。

2曲目の「C.T.A.」以外の収録曲を見渡すと、これまたバラバラ。全く一本筋が通っていない(笑)。ファンキー・ジャズあり、ラテンチックな曲 あり、難解なモンクの幾何学的ジャズあり、バリバリの超スタンダードあり、演奏収録された曲は見事にバラバラ(笑)。それでも、なぜか一貫して、当時全盛 であったハードバップ的な演奏が、実に色濃く記録されているのが実に不思議。

チャーリー・ラウズのテナーがこれだけ個性的で伝統的なものだと初めて感じたし、レイ・ブライアントのファンキーなピアノはこれはこれで個性的だと 思ったし、ジャッキー・マクリーンのアルトは相も変わらず個性的だし、ドナルド・バードのトランペットも溌剌としている。それをバックでとりまとめ盛り立 てるアート・テイラーのドラミングは堅実かつノリが良い。

このアルバム、一聴しただけでは、異質な2曲目の「C.T.A.」の存在がトラップとなって、誰のアルバムだか判らないことが多い。それでも、アルバム全体を覆う雰囲気は、ハードバップ全盛時代の良質なハードバップ的雰囲気が横溢しているので、余計にこのアルバムは誰のリーダーアルバムなのか判ら無くなる。

この『Taylor's Wailers』、Prestigeレーベルのいい加減かつ、やっつけ的な収録〜編集方針がなぜが「功を奏した」不思議なハードバップ・アルバムである。適当にメンバーを集め、適当にジャム・セッションさせる。「スタジオ代がもったいない」という理由からか、ほとんどが「一発録り」。それでも、これだけの内容のハードバップ・アルバムが出来るのだから、本当にジャズって面白い。 
 
 

Kazutoki Umezu『Kiki』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ。今回は14回目。ずっと、純ジャズ、それもハードバップ系の、ちょっと隠れた名盤っぽいアルバムをご紹介してきた。といって、純ジャズ系ハードバップ・ジャズだけが、このシリーズの守備範囲では無い。

今日は、ちょっと尖ったエレクトリック・ジャズの隠れ名盤をご紹介したい。梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』(写真左)。聴いたことがあるジャズ者の方って、あまりいないのでは、と思われる。僕も全く知らなかった。恐らく、ジャズのアルバ ム紹介本なんかにも、その名が挙がることは全く無いと思われる。

が、このアルバムがなかなかの内容なんですよ。ですが、まず、梅津和時とは何者か、ということですね。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を紐解くと、梅津和時(うめづ・かずとき、1949年10月17日 - )は、日本のミュージシャン、サックス、クラリネット奏者。フリー・ジャズを中心に、ロックやクレズマー等、幅広い分野で活動、とある。

僕がジャズ者初心者の頃、大学のころである。梅津和時は、完膚無きまでの「フリー・ジャズ」戦士だった。相当にフリーキーな演奏だったなあ。当時、ジャズ者初心者の頃である。フリーな演奏は全くと言って良いほど知らなかったし、全く理解出来なかった。敢えて無理して聴くこともあるまい、ということ で、梅津和時の演奏は「完全封印」。

が、である。iTunesが出来て、iTunesの中を徘徊していて、この梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』を見つけた。iTunesの良さは、収録された各曲30秒試聴できることである。冒頭の「Kiki」の出だし30秒を聴いて、これは「凄い」と思った。

まるで、エレクトリック・マイルスである。ビートを意識し、ビートを中心にした、エレクトリック・ジャズ。エレクトリックなビートをブンブン言わせて、そのビートの上を、KIKI BANDのフロント、テナーとギターが中心に、ユニゾン&ハーモニー、そして、フリーキーにインプロビゼーションをかましまくる。
 

Umezu_kiki

 
冒頭「KIki」続く「空飛ぶ首」は、完璧なエレクトリック・ファンク・ジャズ。きっちりベースはマイルスである。面白いのは2曲目の「空飛ぶ 首」。エレクトリック・ファンク・ジャズが基本だが、ビートのうねりが、トーキング・ヘッズみたいだったりする。いや〜、なんてごった煮な音楽性だ。これぞジャズである。

3曲目の「Vietnamese Gospel」のバラード演奏が、これまた良い。情感タップリに、梅津和時のテナーが鳴り響き、ギターがこれまた情感たっぷりのインプロビゼーションを聴 かせる。ちょっと和風な雰囲気も漂わせながら、実にポップなバラードである。ここでの梅津和時のテナーは絶品である。

5曲目の「Dancing Bones」は、これまた硬派なエレクトリック・ファンク・ジャズ。エレクトリック・マイルスのビート重視のグループサウンドを実に良く踏襲し、梅津和時 KIKI BANDとしての個性をしっかり折り込んだ硬派なエレクトリック・ファンク・ジャズに完全に脱帽である。間を活かしたソロ、硬軟自在なリズムチェンジ、適 度な隙間のあるビート。フリーキーなテナーとギターのインプロビゼーション。ロックではこうはいかない。かといって、ジャズでもこうはいかない。これは硬派な上質のフュージョンである。

ラストの「Fucking Ada」は、これはもう完全に梅津和時の世界。ビートをシッカリと底に這わせて、テナーとギターが完全フリーな演奏を全編に渡って繰り広げる。でも、昔の 様な、気持ちだけが先走りした、感情的なフリー・ジャズでは無い。シッカリとしたビートに乗ってのフリーキーな演奏なので、演奏全体が崩壊することなく、フリー・ジャズというよりは、限りなく自由になったモーダルな演奏と言った方が良いかもしれない。

この梅津和時 KIKI BANDの『Kiki』を聴いて、「エレクトリック・マイルスの後を継ぐ者」という言葉を思い浮かべた。この『Kiki』というアルバムの中に、エレクトリック・マイルスのDNAが息づいている。エレクトリック・マイルスを模倣するのではない、自分のものとして消化し、自分達の個性をマージしてのエレクト リック・ファンク・ジャズは、いつ聴いても、聴き耳を立ててしまう。

といって、他の梅津和時のアルバムを好んで聴くか、と言えばそうではない。僕にとっては、梅津和時のアルバムについては、この『Kiki』だけが唯一のアルバム。それでも僕はこのアルバムに出会えて幸せである。 
 
 

Jack Wilson『The Jack Wilson Quartet Featuring Roy Ayers』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ、今日は第13回目である。ジャズ喫茶で流したいアルバムは、なにもジャズの歴史の中での有名盤ばかりではない。また、ジャズファンの人気の定盤ばかりではない。

ジャズの楽しみを十分に感じることが出来る、知る人ぞ知る、隠れ名盤、隠れ佳作が、この「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの対象となり得るアルバムになる。この「ジャズ喫茶で流したい」の対象となるアルバムのチョイスが、その「ジャズ喫茶」の見識であり、格式になる。

今日の我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「ジャズ・フュージョン館」で流れているのは、『The Jack Wilson Quartet Featuring Roy Ayers』(写真左)である。ピアニスト、ジャック・ウィルソン(Jack Wilson)の処女作。ロイ・エアーズ (Roy Ayers) のバイブラフォンが加わったカルテットの編成。
 
改めて、パーソネルは、Roy Ayers (vib), Jack Wilson (p), Al Mckibbon (b), Nick Martins (ds)。1963年、Atlanticレーベルからのリリースです。

1曲目はボサノヴァの「コルコバード」。この演奏を聴くと、ピアノのジャック・ウイルソンの特徴が良く判る。ジャズとしての黒さは希薄ではあるが、演奏のベースに、そこはかとなくファンキーさが漂い、ジャジーさよりもポップさが上回る、ジャズというジャンルの中では「中性的な音」。

黒っぽくジャジーでもない、かといって、ファンキーコテコテでも無い。その両者の要素を演奏の底にそこはかとなく漂わせながら、表面上は、ポップで シンプルな、聴き易く、それでいて、全体を覆う雰囲気は紛れもない純ジャズという、ジャック・ウイルソン独特の音世界を楽しませてくれる。
 

Jackwilson_roy_ayers

 
そのジャック・ウイルソン独特の音世界に、これまた貢献しているのが、ロイ・エアーズ のヴァイヴ。ロイ・エアーズはフュージョンというか、ジャズとファンクを融合させた音楽での成果の方で、アシッドジャズやヒップホップに関わる人々に評価されている。決して、純ジャズ側のミュージシャンでは無い。

でも、このアルバムでのロイ・エアーズのヴァイヴは、しっかりと純ジャズしている。ロイ・エアーズのヴァイヴの特徴は、透明なヴァイブの音色。ファンキーさは希薄、ジャジーな雰囲気は漂わせてはいるが、決して米国的では無い。どちらかと言えば欧州的。透明感と爽快感、そしてアーシーな雰囲気を底に漂わせながら、テクニックは正統派。ブルージーに攻めてきても、しっかりと透明感、爽快感が全面に出るところが面白い。

2曲目以降は、全て、ジャック・ウイルソンのオリジナル曲が並ぶ。どの曲を聴いてみても、ジャック・ウイルソンの非凡な作曲センスにビックリする。いずれも良い曲なんですよね。実にわかりやすいブルース・ナンバーが印象的。

地味で全面に出てくることはあまりないが、アル・マッキボン (AL McKIBBON) のベースも心地良い。ニック・マーティンズ(NICK MARTINS)のドラミングは堅実。とにかく、何度聴いても飽きの来ない、上質で品の良い、透明感と疾走感をベースに、ライト感覚溢れる、聴き易いポップなジャズ演奏を聴くことが出来ます。

良いアルバムです。ジャック・ウイルソンって、BlueNoteレーベルの人かと思っていたら、デビューはAtlanticレーベルの人だったんですね〜。でも、この人のジャズ・ピアノの音を聴いていると、Atlanticレーベルからのデビューって判るような気がします。このアルバムのリリースさ れた1963年当時、このジャック・ウイルソンのジャズ・ピアノとオリジナルの楽曲は、ポップさという面で、なかなか新しい感覚のものではなかったか、と思います。 
 
 
 

Warne Marsh『Warne Marsh(Atlantic盤)』

ジャズの歴史に名前を残してはいるが、人気の高いミュージシャンでは無い。はたまた、歴史を変えるような名盤でも無い。でも、その個性を人知れずひっそりと愛でることの出来る、所謂「隠れ名盤」というものは沢山ある。

今回の「ジャズ喫茶で流したい」シリーズの12回目。今回は、Warne Marsh(ウォーン・マーシュ)の『Warne Marsh(Atlantic盤)』(写真左)である。1957年と58年の録音に分かれる。

1曲目「Too Close for Comfort」と3曲目「It's Allright with Me」が、1957年12月の録音。パーソネルは、Warne Marsh (ts), Ronnie Ball (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。

2曲目「Yardbird Suite」、4曲目より「My Melancholy Baby」〜「Just Squeeze Me」〜「Excerpt」が、1958年1月の録音。パーソネルが、Warne Marsh (ts), Paul Chambers (b), Paul Motian (ds)。

マイルス楽団から、Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)の参入が目を引く。それから、ビル・エバンス・トリオで名を馳せたPaul Motian (ds)もだ。リーダーのマーシュは西海岸のテナーマン。Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)は東海岸のミュージシャンだけに、この取り合わせは面白い。
 

Warne_marsh

 
ボワン、フワフワとした心温まるトーンが心地良いマーシュのテナー。決して刺激的でない、丸みのあるインプロビゼーション。クール派と言われるが、芯のしっかりした、男気のある節回しを聴かせる。激しい熱さでは無いが、穏やかなホットさを感じるスタイリッシュなブロウ。

そんなマーシュを、アルバムの演奏の中で、一貫してプッシュしているのが、ベースのチェンバース。ブンブンと弦を震わせながら、マーシュのテナーをフォローする。

最初は「やけにベースのソロが多いなあ」と感じる。ブンブンと特徴的なベース音を聴き続けていると「これはチェンバースか」と思い当たる。そして、聴き進めると「チェンバースのベースは上手い」と感心する。マーシュのバックにしっかりと控え、マーシュのテナーを引き立てる。

特に、Warne Marsh (ts), Paul Chambers (b), Paul Motian (ds)のピアノレス・トリオでの、1958年録音の4曲の演奏が心地良い。ドラムレスのデュオでも良かったのでは、と思えるほどの絶妙な「テナーとベース」の組合せ。チェンバースの絶妙なサポートを得て、いつになくマーシュがホットにブロウするところが実にジャジー。

選曲も良し。マーシュのテナーを愛でるに最高の一枚。良いアルバムです。こんなアルバムが、ジャズ喫茶の昼下がりに流れていたら・・・。そしてそこに、熱くて美味いコーヒーが有れば・・・。これって「至福のひととき」ではないでしょうか。
 
 

Charlie Rouse『Moment's Notice』

さて、久しぶりの「ジャズ喫茶で流したい」シリーズである。今回は第11回目。第9回に続いて、Charlie Rouse(チャーリー・ラウズ)のアルバムを採り上げたい。

「ジャズ喫茶で流したい・9」でご紹介したラウズのアルバムは『Social Call』だった(10月5日のブログ参照・左をクリック)。これぞハードバップって感じで、アグレッシブに、はたまたリリカルに、実に味わい深い演奏を聴かせてくれる佳作であった。

今回、採り上げるラウズのアルバムは『Moment's Notice』(写真左)。ジャケット・デザインも渋い、ラウズのカルテット盤。パーソネルは、Charlie Rouse (ts), Hugh Lawson (p), Bob Cranshaw (b), Ben Riley (ds)。1977年10月の録音である。

チャーリー・ラウズは、伝説のピアニスト、セロニアス・モンクとの共演で最も知られるテナーサックス奏者。ラウズはモンクとの相性が抜群でした。テ クニックに優れ、スケールの広い、モンクの音にぴったり呼応して、モンクの予期せぬフレージングに呼応して、臨機応変に吹きかえす技については、ラウズの右に出る者はいない。

ただ、モンクとの共演が長かったので、マンネリ奏者とか、一人立ちできないテーマンとか、地味で目立たずマンネリなテナー奏者の様な言われ方をされることがありますが、実に残念な言われ方です。この『Moment's Notice』や先にご紹介済みの『Social Call』を聴いて貰えば判るのですが、少し「くすんで掠れた」ポジティブな音が魅力的な、バップ的でアグレッシブなテナー奏者です。

さて、この『Moment's Notice』は、泥臭いハードバップという感じがピッタリかと思います。全編に渡って、ラウズを筆頭に、カルテット全体がハードボイルドにインプロビ ゼーションを展開していくところなんて、実に魅力的です。とにかく徹頭徹尾、ハードボイルドでジャジーな雰囲気で押しまくっています。
 

Moments_notice
 
冒頭の「The Clucker」は、そのハードボイルドでジャジーな雰囲気が満載。疾走感溢れるハードバップです。ユニゾン、ハーモニーもバッチリ決まって、ラウズはア グレッシブにテナーを吹き進めて行きます。この曲は疾走感が最大の魅力でしょう。面白いのは、テーマ部の終わり「きめ」の部分のハーモニーが、日本古謡 の「さくらさくら」の出だしにそっくりのフレーズで、とても耳に残ります。僕は、この「The Clucker」をひそかに「さくらさくら」と呼んでいます(笑)

4曲目、モンクの「Well, You Needn't」は、さすがに素晴らしいテナー・ソロを聴かせてくれます。さすがに、モンクの下に長くいただけはありますね。これはまかせておけ、という感じの「オハコ」感が嬉しいです。安心感抜群ですな(笑)。

6曲目の名バラード「A Child is Born」では、ラウズは悠然とテナーを吹き上げていて、これがまた何とも言えない心地良い雰囲気を醸し出している。自作のブルース2曲目の「Let Me」、7曲目「Little Sherri」では、実に気持ちよさそうな雰囲気でアドリブを展開、とにかく楽しげに、余裕をかましながら、テナーを吹き回す。これがまた良い雰囲気なんですよね。

加えて、この『Moment's Notice』の魅力は、バックのリズム・セクションにあります。まず、ピアノのHugh Lawsonが絶好調。歯切れの良い、硬質なタッチが実に魅力的です。ラウズの少し「くすんで掠れて」軽い雰囲気の吹き回しのテナーと好対照で、実に良い 組合せです。ベースのBob Cranshawも「つんつんつん」と独特の音を響かせながら、しっかりとビートを刻んでいます。そして、ドラムのBen Rileyが実に堅実でテクニックのあるドラミングで、カルテット全体の演奏を支えています。良いリズム・セクションです。

ラウズのテナーは、少し「くすんで掠れて」軽い雰囲気の吹き回しなのですが、茫洋というか悠然というか、吹き回しの余裕の部分がなんとも言えない雰囲気を醸し出すんですよね。実に不思議なテナーマンです。
   
 

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