Eric Reed & Cyrus Chestnut『Plenty Swing, Plenty Soul』
ジャズのアルバムには「いろいろ」ある。最高にアーティスティックなアルバムもある。テンション高い真剣勝負なアルバムもある。息が詰まりそうなハイテクなアルバムもある。しかし、ジャズ本によく載る、絵に描いた様な「名盤」ばかり聴いていると、ちょっと疲れる。
ただ聴いているだけで楽しい気持ちになったり、ただ聴いているだけで幸せな気分になったり、難しいことを考えず、ただ演奏される「音」を聴いているだけで、なんだか心が満たされる。なにかしながら、ただ「ながら」で聴いていても、邪魔にならず、スッと心に入ってくる。そんなアルバムと付き合うのも、長くジャズと付き合っていく上で、非常に大切な「耳のパートナー」である。
この、Eric Reed & Cyrus Chestnutの『Plenty Swing, Plenty Soul』(写真左)は、僕のそんな大切な「耳のパートナー」の一枚。エリック・リードとサイラス・チェスナット(写真右)の2人のピアニストの連弾ライブである。どちらも、現在、気鋭の中堅、正統派のジャズ・ピアニスト。連弾とは言っても、しっかりとリズム・セクションも付いている。Dezron
Douglas(b), Willie Jones III(ds)である。2009年3月の録音。
NYCきっての高級ジャズ・クラブ「ジャズ・アット・リンカーン・センター ディジーズ・クラブ」でのライブ録音である。この「ライブ」というのが楽しい。演奏の途中にお客の拍手が入るが、その拍手の音が「楽しんでいる」音をして
いるのだ。こういう時のジャズのライブ盤は絶対に聴いていて「楽しい」。そして、幸せな気持ちになり、心が満たされる。
恐らく、パラパラコロコロと転がるようにパッセージを展開する方がチェスナット、ブロックコードを駆使しつつ、ちょっと落ち着いたパッセージを聴かせる方がリードだと思うが如何だろうか。とにかく、ドライブ感溢れる、爽快感抜群のピアノが連弾で聴くことが出来る。バラードを弾かせても、そのふくよかな歌心溢れる優雅な雰囲気は二人のピアノの共通の印象。当然、それぞれのソロもあるが、これまた甲乙付け難し。
「I'll Remember April 」「All the Things You Are」「Two Bass Hit」
などのスタンダードは、連弾の特徴を活かして、ピアノの旋律を奏でる音が分厚くて判り易く、音の重なりが美しい、一台のピアノだけでは聴くことが出来ない、連弾ならではのダイナミズムが実に印象的。
即興的に作られたと言われるアルバムタイトル曲のラストの7曲目「Plenty Swing, Plenty
Soul」などは、「ど」がつくほどのゴスペル・タッチで、ピアノの響きも力強く、ファンキーで美しく、バックのリズム・セクションもバリバリに粘っていて、ライブならではのダイナミズムを大いに感じさせてくれる。これ、なかなかのもんでっせ〜。
そう、このエリック・リードとサイラス・チェスナットの連弾ピアノ・トリオ(と言っていいのかしら)は、連弾ならではの「ダイナミズム」が最大の「売り」。二人とも、現時点における、気鋭の中堅、正統派のジャズ・ピアニストで、テクニック・歌心・スタイル、どれをとっても一流で、安心してピアノの演奏に身を任せることができるのも、このアルバムの良さ。
とにかく、ただ聴いていて楽しく、幸せな気分にさせてくれる好ライブ盤です。特に、ジャズ・ピアノの好きなジャズ者の方々にお勧めです。「ながら」で聴いていても、邪魔にならず、スッと心に入ってくる。我が、バーチャル音楽喫茶『松和』では、この半年ほど、気軽に聴ける好アルバムとして、結構、ヘビーローテーションな一枚となっています。
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