ベース

Bobby Jaspar『Bobby Jaspar, George Wallington & Idrees Sulieman』

「ジャズ喫茶で流したい」シリーズ・第25回目である。今日は『Bobby Jaspar, George Wallington & Idrees Sulieman』(写真左)。Riverside RLP240、リバーサイド・レーベルの隠れ名盤。
 
邦題は「ボビー・ジャスパー・ウィズ・ジョージ・ウォーリントン」。なんだか、タイトルだけ見れば、客演のバップ・ピアニスト「ジョージ・ウォーリントン」に重きを置いているような扱いである。
 
原題を見れば、リズムセクションの二人が無視されているようで、もうちょっと、内容に見合ったタイトルをつけることが出来なかったのか、と悔やまれる。そ れほどに、アルバムの中身を聴けば、そんな扱いや印象はとんでもない。リーダーのボビー・ジャスパーのテナー&フルートが堪能できる、優れたハードバップ盤である。
 
ベルギー出身のテナー奏者 Bobby Jaspar(ボビー・ジャズパー)は、パリにおける活動がメインだったが、米国のジャズシーンでも活躍したので、そこそこ知名度の高いミュージシャン。1926年生まれで1963年に亡くなっているので、37歳の若さで夭折(ようせつ)したことになる。それでも、要所要所に良いアルバム、良い演奏を残してくれているのが嬉しい。
 
最も有名なのは、J.J. Johnson の『Dial J.J.5』とWynton Kellyの『Kelly Blue』への参加でしょう。ジャスパーは基本的にはテナー・サックス奏者ですが、「Kelly Blue」でのフルートの演奏も印象的です。僕は、ジャズ者超初心者の頃、この「Kelly Blue」でのジャスパーのフルートに触れて、ジャズってフルートもありなんやなあ、と妙に感心した思い出があります。
 
このアルバムはハードバップ時代ど真ん中、1957年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Jaspar(ts,fl), Idrees Sulieman(tp), George Wallington(p), Wilbur Little(b), Elvin Jones(ds)。
 
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ジャスパーのテナーとフルートはオーソドックスなテナーで、ハードバップ時代特有のソフトで大らかなトーン、語り口の判り易い唄い口で、心地良くリラックスしたブロウを聴かせてくれる。逆に、リズムセクションを担う、ベースのリトルとドラムのエルヴィンは意外とハードタッチで、ビシビシとビートを聴かせた 俊敏なプレイでフロントを盛り立てる。
  
この対比が実に上手く決まっていて、そこに、バップ・ピアニストのウォーリントンが、全体の音のバランスを取るように、全体の音のトーンを決めるように、実に優美なピアノを聴かせくれる。所謂「古き良きジャズ」と呼んでピッタリの内容である。
 
3曲目の有名スタンダード曲「All Of You」なぞ、絶品である。さすがに、この時代の第一線の一流ジャズ・ミュージシャンは、有名スタンダードをやらせると、とにかく上手い。ジャスパーのテナーは、少し掠れた太い音色で、この有名スタンダード曲のテーマを大らかに歌い上げていく。バックのリズム・セクションは、ガッチリとフロントのジャス パーをサポートし、演奏の音のベースをガッチリと支える。

 
5曲目のバラード曲「Before Dawn」のジャスパーのテナーも絶品。オーソドックスなスタイルを踏襲しつつ、少し乾いた音色がとても良い感じである。バラード演奏にしては、ちょっと トランペットが賑やかなのが玉に瑕ではあるが、ジャズパーのバラード演奏は申し分無い。この「Before Dawn」ジャズパーのバラード演奏が堪能できる貴重なトラックである。
 
良いアルバムです。ジャズの歴史を彩る、ジャズ者初心者向け入門本に挙がる様な名盤ではありませんが、ハードバップな雰囲気満載で、聴き始めると一気に聴き込んでしまいます。時々引っ張り出しては聴きたくなる、飽きの来ない、スルメの様な、噛めば噛むほど味が出る、聴けば聴くほど味が出る、そんなハードバップ時代の「隠れ名盤」です。 
 
 
 

The Great Jazz Trio『Love For Sale』

The Great Jazz Trio と言えば、ハンク・ジョーンズ (p)、ロン・カーター (b)、トニー・ウイリアムス (ds) のベテランピアニスト+中堅ジャズメン2人によるトリオ、となる。代表作としては、『At the Village Vanguard』3部作。

僕は、トニー・ウイリアムスの「ど派手」なドラミングについては、そんなに問題とは思っていない。ハードバップなドラミングを「ど派手」な方向に最大限に振ったら、トニー・ウィリアムスの様なドラミングになるだろう、と思う。

しかし、アタッチメントを付けて電気ベースの様な音に増幅された、ロンの「ドローン、ベローン」と間延びして、締まりの無いベース音がどうしても好きになれない。しかも、ピッチが合っていない。せめて、楽器のチューニングはちゃんとして欲しい。気持ち悪くて仕方が無い(1990年代以降は徐々に改 善されていくのだが・・・)。

よって、ハンク・ジョーンズのベテラン的な味のあるバップ・ピアノとトニー・ウイリアムスの「ど派手」なハードバップ・ドラミングは良いとして、ベースのロン・カーターのベースを何とかしてくれ、と思ったことが何度あったことか(笑)。が、これが「ある」から面白い。

1976年5月録音、The Great Jazz Trio単独名義のファースト・アルバムは『Love For Sale』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Hank Jones (p), Buster Williams (b), Tony Williams (ds)。なんと、ベースは、バスター・ウィリアムスなんですね〜。渡辺貞夫との共演盤でのThe Great Jazz Trioのベーシストは、ロン・カーターなんですけどね〜。つまり、ベーシストは固まっていなかったってこと。

このバスター・ウィリアムスのベースが実に良いんですよ。ブンブンと引き締まった重低音を、しっかりとピッチの合ったベースラインを、自然な生ベースの音を、実にアコースティックに聴かせてくれる。
 

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ハンク・ジョーンズのベテラン的な味のあるバップ・ピアノとトニー・ウイリアムスの「ど派手」なハードバップ・ドラミング、そして、バスター・ウィリアムスの「しっかりとピッチの合った」ブンブンと引き締まったベース。これぞ、ピアノ・トリオって感じ。

僕は、このバスター・ウィリアムスがベースの The Great Jazz Trio を愛して止まない。けれど、この1976年5月録音の『Love For Sale』の一枚しか、このトリオでの The Great Jazz Trio の録音が無い。これが実に残念でならない。

ベースがバスター・ウィリアムスで、ビシッと決まっているお陰で、トニー・ウィリアムスのドラミングの素晴らしさが浮き出てくる。彼のドラミングは 単に「ど派手」なだけではない。伝統的なハードバップ的なドラミングを、当時最新のドラミング・テクニックで再構築しており、実に斬新的な響きのするハー ドバップ・ドラミングが実に新しい。確かに「すべっている」部分もあるが、ここでのトニーのドラミングは「温故知新」。伝統的なハードバップ・ドラミング を最新の語法で、従来の4ビートのセオリーを打ち破って、1980年代以降のハードバップ復古の時代に続く、新しいハードバップ・ドラミングを提示してい るところが凄い。

このアルバムでは有名なスタンダード・ナンバーを中心に演奏していますが、これがまた新しい響きを宿していて、ハンク・ジョーンズ侮り難しである。従来と異なったアレンジを採用したり、トニーとウィリアムスのバッキングを前面に押し出して、従来のハードバップなアプローチを覆してみたり、従来のスタンダード解釈に囚われない、そこはかとなく斬新なアプローチが、今の耳にも心地良く響く。とにかく、従来のハードバップに囚われず、逆に、トニーとウィリ アムスの協力を得て、新しいハードバップな響きを獲得しているところが実に「ニクイ」。

良いアルバムです。良いピアノ・トリオです。The Great Jazz Trioの諸作の中では、あまり話題に挙がらないアルバムですが、このアルバム、結構、イケてると思います。バーチャル音楽喫茶『松和』では、結構、ちょくちょくかかる、松和のマスターお気に入りの一枚です。
 
 
 

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