クールで大人な『トリロジー』
エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer、略して「ELP」)の最大の魅力は、やはり、キース・エマーソンのキーボード。特にハモンド・オルガンとモーグ・シンセサイザーについては、他の追従を許さないものがある。特に、モーグ・シンセは、1960年代後半から録音に使われ出した「新しい楽器の音」だった。ロックでは、ELPのアルバムが、この「新しい楽器の音」を体験するのに手っ取り早かった。
Emerson, Lake & Palmer『Trilogy』(写真左)。ELPの4枚目のオリジナル盤。1972年の作品。ジャケットのメンバー3人が合体した様なコンセプトの絵画調の図案はヒプノシスのデザイン。僕はこの盤を1975年の正月に購入した。ELPのアルバムの中で、記念すべき、初めて自分で購入したアルバムになる。何故、自分で購入したか。この盤だけ、僕の周りに持っている人がいなかったからである。
実はこの盤を初めて聴いた時、「失敗したなあ」と思った。アルバム全体の演奏の雰囲気が「地味」なのだ。ELPのアルバムは、この盤を除いて、演奏にメリハリが効いていて、展開や取り回しが大胆かつダイナミック。不思議とこの『Trilogy』だけが「地味」というか「落ち着いている」のだ。ロックを聴き始めて、まだ1年にも満たない、当時の僕としては、これは「大失敗」だと思った。よって、暫く「お蔵入り」となる(笑)。この盤の魅力に気がついたのは、社会人になって15年位経った、音楽を聴く耳もそれなりに成熟した頃である。
この盤はキースのモーグ・シンセサイザーが本格的に活躍している盤である。それまでは、曲のほんの一部に効果的に挿入されたり、SE的に使われたりしていたが、本格的にメインの旋律楽器として使われていることは無かった。しかし、この盤では大活躍。シンセの旋律は繊細であり、独特の透明感がある。太い音でもどこか透き通った感があり、この繊細さと透明感の音質が、この盤全体の演奏の雰囲気が「地味」に感じたのだ、と気がついた。これは「地味」では無い。「クール」なのだ。
セカンド盤ではあまり感心しなかった小曲も、この盤ではなかなかの内容に仕上がっている。特に4曲目の「From the Beginning」については、グレッグのアコギが最高のパフォーマンス。グレッグの歌唱も素晴らしく、クロージングのキースのシンセのソロがこれまた渋い。グレッグのボーカルと言えば、8曲目の「Living Sin」も良い感じ。「The Sheriff」や「Hoedown (Taken from Rodeo)」などのインストの小曲も出来は良好。
それなりに成熟した「音楽を聴く耳」を持って、「The Endless Enigma(永遠の謎)」や「Trilogy」「Abaddon’s Bolero」がキースのシンセの名演であることが理解出来る。この『Trilogy』には、20分強にも及ぶ壮大な展開の大作組曲は無いが、様々な音楽ジャンル(カントリー、ブルース、現代クラシック、バロック、ハード・ロック、ラテン、ウエスタン、ホンキートンク)が、散漫にならずに、しっかりと融合された、クールで大人なプログレッシブ・ロック盤です。
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